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DATE/ 2019.11.03

国家公務員で「残業」が最も多いのは?

 安倍内閣入魂の「働き方改革」により、残業時間の上限が原則として月45時間・年間360時間に定められました。大企業ではすでに2019年4月より実施、中小企業でも2020年4月から実施されるため、現場ではさまざまな反応を引き起こしています。ルール違反に対して、これまでは行政指導のみだったのが、「6箇月以下の懲役または30万円以下の罰金」と、法律上定められたのも画期的です。

過労死ラインギリギリも?国家公務員の残業実情

 そんななか、お膝元である国家公務員の残業時間はどうなっているかを、オープンワーク(株)が2019年9月24日に発表しました。調査は、8月までにOpen Workに投稿された会員による自分の勤務先である中央官公庁への評価レポート5653件をもとに行われ、10件以上回答のある中央官庁24に限定してランキングが作成されました。

 まず、ワーストとなる残業時間の多い12省庁を見てみましょう。

順位:機関名/月間残業時間
1:財務省/72.59
2:文部科学省/72.43
3:経済産業省/70.16
4:総務省/61.48
5:内閣府/60.68
6:警察庁/58.56
7:外務省/58.13
8:環境省/54.06
9:衆議院/50.86
10:国土交通省/50.46
11:海上自衛隊/49.77
12:農林水産省/48.06

 ワースト12はすべて「月45時間」ルールをオーバーしていますが、臨時的・特別の事情により労使間の合意がある場合「年720時間以内、複数月平均80時間以内、また単月100時間未満」の残業はセーフとされています。

 しかし一方で、「過労死ライン」とされているのは1か月80時間の時間外労働。ワースト3の財務省・文部科学省・経済産業省は、かなりスレスレの数字を出しています。

ワークライフバランスに最も理想の省庁は?

 では、残り半分の省庁はどうなっているでしょうか。最もホワイトな働き方をしているのは?

順位:機関名/月間残業時間
13:金融庁/47.29
14:防衛省/46.69
15:厚生労働省/45.76
16:陸上自衛隊/32.88
17:海上保安庁/31.35
18:航空自衛隊/29.84
19:検察庁/28.86
20:法務省/26.05
21:会計検査院/24.72
22:特許庁/20.72
23:国税庁/17.86
24:裁判所/9.15

 15位までは、相変わらず上限オーバー。残りの9省庁のみが法律遵守組となります。働き方改革の主務官庁である厚生労働省が、今回定めた「45時間」の原則を水際で攻防している様子がうかがえますね。残業が少ないトップの裁判所は、なんと10時間未満。ほぼ毎日定時で退勤できて、ワークライフバランスは理想的に見えます。

 これらは男女別やキャリア・ノンキャリア別にはなっていませんから、「働き盛りのキャリア公務員男性」などは、さらに集中する残業をこなしているのではないでしょうか。

「国会対応」残業は、誰にも文句が言えない?

 本調査には会員からのクチコミも寄せられ、より実態に近いナマの声がうかがえるようになっています。たとえばワーストの財務省では…。

「国会業務や予算編成、税制改正など長時間労働が基本なので、ワークライフバランスは諦めざるを得ない」(財務省、男性 事務職)

「やや改善していこうとする動きは見られるが、ワークライフバランスに対する意識は民間企業に比べると乏しい。国会や政治家等への突発的な対応が求められることも多く、プライベートを犠牲にされることも多々あり」(財務省、男性 企画・調査)

 と、「国会対応」を中心とした諦めムードが多々あり、です。「国会対応」とは、国会で質問を受ける省庁大臣らの答弁を作成する重要な業務。内閣人事局が行った「国会対応の実態調査」によると、「質問通告」が終わる平均時刻は午後8時19分、各省庁への割り振りが確定する平均時刻は午後10時28分。それからが答弁作成タイムですから、徹夜は必至となります。

 一方で「遵法精神」の砦として、組織風土の面からワークライフバランス向上を推進する裁判所公務員のクチコミは…。

「部署によるが、特に事務官のうちは一般企業の社員よりも残業は少ない。基本的に土日祝日が休みで、かつ有給も取りやすいので、自分の時間はつくりやすい。実際に子どもとの時間や趣味の時間を充実させている人が多い。給与面や内容から見れば、民間企業に比べて相当恵まれているのではないか」(裁判所、女性 事務官)

「裁判部の事務官であれば、毎日定時(夕方5時)に帰れる部署が多い。書記官はこの限りではなく、長時間残業が常態化している部署もあるが、遅くても午後8時~10時には退庁できる。なお、組織として長時間残業が歓迎されておらず、一定時間を超えると上司との面談により業務効率化を促されるシステムとなっている」(裁判所、女性 書記官)

 やはり時短はトップダウン、組織の体質改善から始まるしかないのかと考えさせられるランキング&コメントでした。

<参考サイト>
・OpenWork:「国家公務員の残業時間ランキング」を発表しました。(働きがい研究所 調査レポート Vol.63)
https://vorkers.jp/press/2019092401
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