テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
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DATE/ 2019.11.26

「ポジティブ」な人はどこが違うのか?

 「ポジティブ心理学」の創始者である心理学者のマーティン・セリグマン氏は、“本物のポジティブ感情”が生まれるために発揮するべき“強み”について、以下のように分類しています。

 【24の強み】(1)~6)が6つの徳性カテゴリー、1.~24.が24の強み)
1)知恵と知識:1.創造性、2.好奇心、3.知的柔軟性、4.向学心、5.大局観。
2)勇気:6.勇敢さ、7.忍耐力、8.誠実さ、9.熱意。
3)人間性:10.愛情、11.親切心、12.社会的知能。
4)正義:13.チームワーク、14.公平さ、15.リーダーシップ
5)節制:16.寛容さ、17.慎み深さ、18.思慮深さ、19.自己調整。
6) 超越性:20.審美眼、21.感謝、22.希望、2.ユーモア、24.スピリチュアリティ。

 【24の強み】のうち、あなたが自覚する自分の“強み”=自身の“本物のポジティブ感情”は、いくつあったでしょうか。

「10のポジティブ感情」ととらえ方

 一方、セリグマン氏と同じくポジティブ心理学トップランナーの一人である心理学者のバーバラ・フレドリクソン氏は、生活の中に色濃く現れる最も一般的で代表的な【10のポジティブ感情】を、比較的出現頻度の高い順に分類・整理しています。

 1)「喜び」(Joy)
安全で見慣れた場所にいる。すべてが期待以上にうまくいっている。努力を必要とされる状況はほとんどない。こんなときが「喜び」を覚えるときで、「喜び」の源は数知れずあります。

 2)「感謝」(Gratitude)
「感謝」の対象は人とは限らず、与えられた何かについてその価値を認めたときに起こります。“礼儀”でも“負い目”でもなく、心から感じ、楽しみ、かつ自由な発想で“お返しをしたい“という感情です。

 3)「安らぎ」(Serenity)
「安らぎ」は「喜び」と似ていますが、ずっと地味な感情です。今の瞬間の感覚に意識が集中し、これをゆっくり味わっていたい、もっとこういう感覚をいつも味わいたいと思う“残光の感情”です。

 4)「興味」(Interest)
新しいものごとに関心を抱き、謎を突き止めたいという気持ちにつき動かされる。「喜び」や「安らぎ」と違い、「興味」は努力と集中を要求しますが、持つと心は広がって生き生きします。

 5)「希望」(Hope)
ほかのポジティブ感情が安全で満たされた状態で生じるのに対し、「希望」は例外です。「希望」は“絶望”や“失望”を感じてもよさそうな状況で現れる、“最悪な事態を恐れながらよりよい状況を望む”感情です。

 6)「誇り」(Pride)
「誇り」はいわゆる“自尊感情”のひとつで、手柄となるようなことをやり遂げたときに生じ、思想を広げ、さらなる達成への動機をかきたてます。ただし、“傲慢”となる恐れもあるため、限定的で適度な謙虚さによる抑制が必要になります。

 7)「愉快」(Amusement)
まず、“「愉快」という感覚は社会的なものであること”。次に、“意外性は安全な状況のなかにあってのみ「愉快」だということ”。心から面白いと思えば、笑わずにいられない、誰かと分かち合いたい、という感情です。

 8)「鼓舞」(Inspiration)
人間の素晴らしさに出会い、奮い立つような感情がわいて、意識はくぎ付けになり、心が熱くなる。「感謝」と「畏敬」とともに最も自我を超越した感情とされ、人を自己満足から引き出してくれます。ただし、“憎しみ”や“ねたみ”を覚えたり、“自己嫌悪”に陥ったりする場合もあります。

 9)「畏敬」(Awe)
「鼓舞」と近いのですが、例えば自然のようにもう少し規模の大きい素晴らしさに出会ったときに感じるものです。偉大さに圧倒され、自分自身の小ささを感じて謙虚になります。同時に、境界が消え、自分が何か偉大なものの一部であると感じます。

 10)「愛」(Love)
「愛」は例外で、ポジティブ感情のすべてを含んでその上に位置する感情です。安全で親密な人間関係のなかで、もろもろのポジティブ感情が心を揺さぶるとき、状況によってそれは「愛」となります。「愛」というのは“瞬間的な心の状態”であり、“関係”を定義するものではなく、波のような感情の高まりなのです。

 以上のように、ポジティブ感情はいろいろな形で現れます。しかし、どのポジティブ感情も儚く、瞬く間に失われてしまいます。また、ポジティブ感情もほかの感情と同様に、出来事を「どう解釈するか」というところから生じ、出来事の解釈によって感じ方は変化します。

 つまり、ポジティブ感情を感じるかどうかは、適切にとらえる必要があり、またとらえ方次第だといえます。日々の出来事からポジティブ感情の視点をもって良さを見出し、さらにはその良さをはぐくめる人こそが、「ポジティブ」な人といえるのではないでしょうか。

「ポジティブ」な人になるためのアプローチ

 では、現在「ポジティブ」でない人でも実践できる、「ポジティブ」な人になるための方法はあるのでしょうか。

 ここでは、セリグマン氏の考案した「Three Good Things」(スリーグッドシングス;3つの良いこと)というエクササイズを紹介したいと思います。「Three Good Things」の方法は簡単で、「毎晩寝る前に、その日あった『3つの良いこと』を書き出し、これを1週間続ける」というものです。

 「終わり良ければすべて良し」という諺にもあるように、1日の終わりに「3つの良いこと」を書き出すことによって、たとえその日に嫌な出来事があったとしても、認知を変えて1日を良いほうに見直し、「ポジティブ」にとらえ直すことができるようになります。

 なお、“良いこと”は大きなことでなくても大丈夫です。「コーヒーがおいしかった」「窓を開けたとき風が心地良かった」など、ささやかなことでかまいません。また、リストラや大切な人との死別などとてもつらい状況の場合は、“普通のこと(つらくない瞬間)”を書いていただければとよいといわれています。ぜひ日々の生活に組み込んで、「ポジティブ」な習慣を身に付けてみてください。そのときこそ、「ポジティブ」な人の違いが感じられるようになるかもしれません。

<参考文献>
・『世界でひとつだけの幸せ』(マーティン・セリグマン著、小林裕子訳、アスペクト)
・『ポジティブ心理学の挑戦』(マーティン・セリグマン著、宇野カオリ監訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)
・『ポジティブな人だけがうまくいく3:1の法則』(バーバラ・フレドリクソン著、植木理恵監修、高橋由紀子訳、日本実業出版社)
・『実践ポジティブ心理学』(前野隆司著、PHP新書)

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