テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
DATE/ 2020.03.29

企業経営に与えるコロナウイルスの影響は?

 新型コロナウイルス(COVID-19)の影響はあらゆる方面に波及しています。スポーツイベントやライブイベントなどをはじめ、大小さまざまなイベントが中止や延期を余儀なくされました。こうなるとイベント業や外食産業はかなり厳しいことは想像に難くありません。日経平均株価は一時1万7千円を下回るなど、株価は暴落しています。事態に対して政府と日銀は経済への影響を最小限に抑えるべく、矢継ぎ早に対策を打ち出しています。では、現状で企業経営においてはどういった影響がでているのでしょうか。

製造業、サービス業、小売業で影響が特に大きい

 今回の状況を受けて、東京商工リサーチは新型コロナウイルスによる企業への影響を随時チェックしています。ここでは3月9日の情報から3月13日正午での情報までを少し詳しく見てみましょう。3月13日正午の情報によると、同社の調査に対して549社の上場企業が新型コロナウイルスの対応を明らかにしています。このうち、新型コロナウイルスにより売上、利益面などの業績面でマイナスの影響を受けた企業は115社で34.3%となっています。業績予想のマイナス修正を合算すると、売上高で5,172億円、最終利益は1,232億円になるとのこと。

 3月13日の情報による売上高の修正額が大きい企業としてはエイチ・アイ・エス(旅行業大手)や住友化学(化学業界大手)、三菱ロジスネクスト(フォークリフトを中心とした物流機器メーカー大手)といった企業が挙がっています。旅行業が痛手であることは、世界中で人の移動が制限されていることから想像がつきます。化学製品を作り出すには原料から製品までの流れ、いわゆるサプライチェーンの管理が必須です。この点で新型コロナウイルスは動きを阻んでいると言えるでしょう。

 また、日付を戻って3月9日の情報によると、業績予想のマイナス修正はエイチ・アイ・エスのほかに、イベント自粛の影響を受けた貸会議室大手(株)ティーケーピー、免税店売り上げ減少などの影響を受けた(株)高島屋、大丸や松坂屋のJ.フロントリテイリング(株)、(株)三越伊勢丹ホールディングスといった百貨店が挙がっています。ここまで旅行業、化学業界、物流機器メーカー、イベント業界、小売業界と影響が幅広く生じていることがわかります。

 東京商工リサーチが3月12日に公表した「第2回 新型コロナウイルスに関するアンケート」(3月2日から8日、インターネット調査。有効回答1万6,327社)によると、2020年2月の売上は、約7割の企業で前年同月より減少したと回答しています。この調査で「すでに影響が出ている」「今後出る可能性がある」と回答した会社が多い産業は、多い順に製造業(4,522社)、ついで卸売業(3,593社)、サービス業他(3,051社)となっています。

 また分析では、回答のあった道路旅客運送業の全て(29社)が「すでに影響が出ている」と回答しています。また宿泊業の96.5%(86社中、83社)、飲食店の91.7%(133社中、122社)、旅行業や葬儀業、結婚式場業などを含むその他の生活関連サービス業の90.0%(100社中、90社)も同じ回答です。こういったことから、分析では特に「BtoC」ビジネスでの影響が顕著であるとしています。

農林水産業、建設業はじわじわと影響がでている

 一方、同調査で「すでに影響が出ている」「今後出る可能性がある」と回答した会社が「少ない」産業は、農・林・漁・鉱業(78社)で最も少なく、次いで金融・保険業(214社)、運輸業(639社)の順になっています。農林水産業は全体で言えば比較的影響は小さいと言えるかもしれません。しかしここでも動きはあります。

 3月18日に農林中金は「復興ファンド」の出資対象に「新型コロナウイルス感染拡大によって被害を受けた農業法人等」を追加しました。融資などの対策が取られはじめています。実際に、3月は卒業式や歓送迎会など花を贈る機会が多い時期ですが、イベントの自粛によって花の消費は落ち込んでいます。また、学校が臨時休校となったことで、給食用の食材を提供していた事業者にも影響が出ているようです。問題は連鎖的に発生しています。

 また、比較的影響は少ないと思われる建設業においても問題は顕在化してきているようです。中国で建材生産がストップし、メーカーに発注しても入荷せず工事が遅延するなど、悪影響は建設業から不動産業にも波及し始めています。これが長期に渡ればもっと広範囲な影響がおきることも想定されます。

商機をつかんでいる業種もある 

 こういったさまざまな悪影響が連鎖してきていますが、一方で商機をつかんでいる業種もいくつかあります。特に「巣ごもり消費」関連と言われるような業種です。「巣ごもり消費」とは2008年のリーマン・ショック時に、節約のために外食を避ける消費行動として注目されました。今回も2020年2月の大手ネットスーパーの売り上げは前年比2割増となっています。

 また、「巣ごもり消費」に絡み、通販サイト自体の売り上げも急増しています。3月17日付の日経新聞の記事では、アマゾンの荷物を運ぶ運送会社幹部の「毎日セールが続いているような勢い」という言葉とともに、その繁忙ぶりを紹介しています。また、アスクルのネット通販「ロハコ」の2月の売上高は、前月比24%増、「楽天西友ネットスーパー」では1日に対応できる配送枠が埋まるケースも出てきているとのこと。この動きは日本だけではないようです。アメリカのアマゾンは3月16日、需要急増を受けて世界の従業員の1割強にあたる10万人を追加採用すると発表しました。

薬は臨床研究まで進んでいる

 新型コロナウイルスは、私たちの生活をかなり不自由なものにしようとしています。もちろん、変化をうまく取り込むことができれば、社会の新しい形が生まれるかもしれません。リモートワークや時差出勤がうまく根づけば、災害にたいして柔軟に対応できる社会になるかもしれません。また、株価の暴落を経験したことで、私たちはよりよい経済の仕組みはどういうものか、またどのような意識で投資を行えば良いのか、明確な問題意識を持って考えることができます。また、これまでも何度も未知のウイルスに遭遇してきたはずです。今回もすでにさまざまな研究が行われ、他の病に対する薬でいくつか新型コロナウイルスに効果があることが認められてきました。日本の企業もすでに医療の分野で臨床研究まで進んでいます。

<参考サイト>
・上場企業「新型コロナウイルス影響」調査 (3月13日正午現在)|東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200313_01.html
・「新型コロナウイルス」の企業への影響 全国ヒアリング調査(3月12日)|東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200312_01.html
・「新型コロナウイルス」の企業への影響 全国ヒアリング調査(3月9日)|東京商工リサーチ
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200309_03.html
・上場企業「新型コロナウイルス影響」調査(3月9日)|東京商工リサーチ
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20200309_04.html
・新型コロナで影響を受けた農林水産業者の財務安定支援 農林中金(3月18日)|農業協同組合新聞
https://www.jacom.or.jp/kinyu/news/2020/03/200318-40797.php
・巣ごもり消費、ネット通販押し上げ amazonやロハコ(3月17日)|日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56876000X10C20A3TJ1000/
・amazon、10万人を追加採用へ 新型コロナで需要増(3月17日)|日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56874480X10C20A3EAF000/

あわせて読みたい