世界のどこかで今日も紛争や災害が絶えない。辛いことだが、その地域に特定の関わりがないと見過ごしてしまうのが一般の心情だろう。しかし、「
レアメタル」という観点を通して、世界情勢に心を痛める人がいる。地球上の
レアメタル事情を知り尽くしていることから一部では「
レアメタル・マフィア」のあだ名で呼ばれる
岡部徹氏(東京大学生産技術研究所副所長・教授)だ。
パラジウム不足に直結するウクライナ情勢
ウクライナの政情不安の報に接し、岡部氏の頭を真っ先によぎったのはもちろん「パラジウムはどうなる?」という不安だった。プラチナと同じ白金族金属の一つであるパラジウムは、自動車産業や燃料電池に不可欠の
レアメタル。産出国は、世界中でロシアと南アフリカだけだから、仮にこの2国が供給を停止したら、日本の産業・経済に及ぼす影響はおびただしいものになる。
究極のエコカーの決め手は、パラジウム
ハイテク関連で「縁の下の力持ち」役を果たすのが
レアメタル。とりわけパラジウムは、自動車の排気ガスを浄化する触媒として不可欠である。自動車一台当たり2~3グラムが必要だ。「小さじ半分?」と思われるかもしれないが、パラジウムの売値は1グラム数千円に上る。さらにパラジウムは、燃料電池にも使われている。究極のエコカーとして注目を浴びる燃料電池車となると、その使用量はハンパでない。
リサイクルしても資源の残らない日本
レアメタルは一般に高価なものなので、リサイクルが進んでいる。日本も技術的にはリサイクル先進国で、世界からスクラップを集めて、白金属の精錬・リサイクルが盛んに行われている。しかしそうやって抽出し、再度車に搭載された
レアメタルは、車の輸出に伴ってまた世界に散らばっていく。皮肉な話だが、日本が得意としてきた加工貿易は、貴重な資源をどんどん食いつぶす側面も持っている。国産車が大量に輸出されていく光景を見るたび、岡部氏はいつも口惜しい思いにふけるのである。