テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2021.05.06

「自分をコントロールする力」を伸ばす方法

 何度注意をしても宿題よりゲームを優先してしまう、ご飯前なのにスナック菓子を食べるのを止められない。こんなわが子の姿を見て、「このままではいけない。なんとかしなければ」と感じている方も多いのではないでしょうか。今回は、子どもの「自分をコントロールする力(自制心)」を育むにはどうしたらよいのかについて、発達心理学・発達認知神経科学を専門とする京都大学大学院准教授の森口佑介氏からお話をうかがいました。

自制心の2つの側面-感情面と思考面

 自分をコントロールする力、すなわち自制心は、発達心理学の分野では「実行機能」と呼ばれています。目先の誘惑に負けずに本来するべきことを実行できる能力、と解釈すればよいでしょう。要するに目標を立てて遂行し、達成するための能力ということです。

 森口氏によれば、この実行機能には感情面と思考面、2つの側面があるということです。感情面の実行機能とは、衝動的な感情や欲求を自分でコントロールすること。たとえば、大好きなポテトチップスがあり、もっともっと食べたいけれど、もうすぐご飯だからこの辺で止めておこう、と自制する。そのために「自分をコントロールする力」がそれに当たります。

 もう1つ、思考面の実行機能は、習慣や癖をコントロールする力のことで、平たくいえば「集中力」。友だちのおしゃべりやテレビの音などで多少周囲がざわついていても、目の前のやるべきこと、例えば勉強に集中できれば、思考面での実行機能がうまく働いているということになります。また、もしうまく実行できなければ、やり方を変えるなどして別の方法に取り組んでみる。こうした切り替え能力も思考面の実行機能に含まれます。

自制心を育てるなら3歳から5歳が鍵になる

 実は、この実行機能は感情面、思考面ともに3歳から5歳くらいの幼児期に著しく発達することが実験によって分かっています。まだまだ赤ちゃんだと思っていたのに、幼稚園や保育園の年長さんになる頃から、聞き分けよく我慢できるようになったりするのを感じる親御さんも多いのではないでしょうか。「よく我慢できたね」などとほめ言葉で声をかけることが増えてくるのもこの幼児期です。

 実行機能は小学校から青年期にかけても発達するのですが、幼児期に比べてその成長度は緩やかということですから、やはり幼児期のうちに、いかに実行機能を育てるかが鍵ということになります。

子どもの実行機能を伸ばすために

 実行機能を育てるには幼児期が鍵と聞くと、その具体的な方法が気になるところですが、実はこれがいたってシンプルなのです。

 第一に、規則正しい生活習慣を身につけること。なかでも特に重要なのが睡眠です。近年、日本人の平均睡眠時間が減少傾向にあり、子どもといっても例外ではありません。よって、ごく当たり前なことですが、夜はしっかりと寝ることがポイント。なぜなら、夜寝ている間に疲れた脳は修復され、そのことが脳の成長につながるからです。そのためには、だらだらと昼寝をさせないこと。適当な時間にお風呂に入って、就寝時間がきたら部屋を暗くして布団に入ること。こうした小さな生活習慣の積み重ねが、よい睡眠、規則正しい生活へとつながるのです。

 また、メディアとの付き合い方にも注意が必要です。子どもに「テレビは1日○時間まで」とルールを設けている家庭も少なくないかもしれませんが、誰も見ていないのにテレビがつけっぱなしになっているという状態も、子どもの実行機能発達によくない影響を及ぼすそうです。他にも、親がスマホを見っぱなしで子どもの顔を見ようとしない、会話もない、というのは避けるべきことです。

すべての基本は親子の絆から

 よい睡眠と適切なメディアとの付き合い方によって、規則正しい生活習慣を身につけ、子どもの実行機能を伸ばすことができる。一見、簡単なことのように思えますが、これらはすべて、親子の愛情関係、強い絆が基盤となっていることはいうまでもありません。

 お父さん、お母さんに絵本を読んでもらいながら、気持ちよく寝入った記憶、ご飯のときにその日あったことを話した思い出。そんな当たり前の家庭の日常が、実は子どもの自制心を育むのに大事なことだったのですね。
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
“社会人学習”できていますか? 『テンミニッツTV』 なら手軽に始められます。
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために

ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
橋爪大三郎
社会学者
2

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か

ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31
池上英洋
東京造形大学教授
3

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(1)ChatGPT生みの親の半生

ChatGPTを生みだしたOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの進化・発展によって急速に変化している世界の情報環境だが、今その中心にいる人物といっていいだろう。今回のシリーズでは、サム・アルトマンの才能や彼をとりまくアメ...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/04/19
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
4

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(1)内藤新宿の誕生と役割

江戸時代後期に書かれた地誌『江戸名所図会』(えどめいしょずえ)をひもとくと、江戸時代の街の様子や人々の暮らしぶりが見えてくる。今回は、五街道の宿場町として重要な役割を果たした「内藤新宿」を取り上げ、新宿のかつて...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/21
堀口茉純
歴史作家
5

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元

日本語の発音は、漢字到来以来一千年の歴史を通してどう変わってきたのか。また、なぜ日本語は「文明語」として世界に名だたる存在といえるのか。二つの疑問を解き明かす日本語学者として釘貫亨氏をお招きした。1回目は古代日本...
収録日:2023/12/01
追加日:2024/03/08
釘貫亨
名古屋大学名誉教授