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DATE/ 2021.10.06

日本は世界最下位!感情知能「EQ」とは

 コロナ禍のリモートワークで生身のコミュニケーションが希薄になる今、こころの知能指数(EQ)が見直されています。EQとは何なのか、日本ではどうしてEQが低下してしまったのか。調べてみました。

自他の感情を乗りこなす「EQ」という能力

 EQ(Emotional Intelligence Quotient)は1990年代半ば、米・カリフォルニアの心理学者ダニエル・ゴールマン氏の著書により急速に広がった考え方。人生で学問的、専門的、社会的、対人的に成功を遂げるうえで、IQ(知能指数)と同じくらい重要な指標として紹介されました。

 EQは、「自分と他の人の感情を監視し、異なる感情を区別して適切にラベル付けし、感情情報を使用して思考と行動を導く能力」と定義されています。

 ゴールマン氏は、この能力をさらに「自己認識」「自己調整」「社会的スキル」「共感」「動機」に分け、ビジネスの場で活用する方法を示しました。たとえば「社会的スキル」の定義は他者との調和した人間関係をマネジメントする能力。その特性は「変化をリードする能力」「説得力」「広いネットワーク力」「チームの構築とリードする能力」と整理したわけです。

 こうした能力は、優れたリーダーとして、IQ以上に重要な資質と考えられます。さらにゴールマン氏は、これらを後天的な訓練で伸ばせるものであるとしました。昔から「人格者」と呼ばれ、人に慕われるための能力が体系的に身につけられることを示した研究は全米で注目され、多くの企業の研修等に取り入れられました。

日本のEQは世界ワースト?

 1995年に翻訳出版された『EQ こころの知能指数』でゴールマン氏は、EQが注目された理由の一つを、「思いやり、自制、協力、調和を重んじる」日本的価値観に世界が気づいた徴候と言っています。

 ところが、25年後の現在、Six Secondsが開発したEQテストによると、160の国や地域から受検した人々のなかで、日本のEQスコアは世界最下位という結果が出ています(2019年1月時点)。また、EQと相関があるとされる健康水準についても、世界の中央値を下回ることが同時に指摘されました。

 なぜ世界的に見て日本人のEQは低い値なのでしょうか。ビジネス・シーンにおいて「感情を切り捨てる」のがよしとされる価値観、いまだに根深い「年功序列」や「学歴」により、感情知能が熟成する機会を得られないことなど、さまざまな課題が指摘されています。

 たとえば最近のニュースでいえば、大阪・道頓堀川で外国人同士のトラブルが起こり、一人が相手から突き落とされて溺死しました。現場は人通りの多い繁華街でしたが、日曜の夜8時という時間帯にその場に居合わせた多くの人たちは様子を動画撮影するのに夢中で、だれも救助に向かわなかった。この事件など、昨今の日本人のEQの低さを象徴していると思われます。

EQの高い人ってどんな人?

 では、EQの高い人の特徴を紹介していきましょう。

 「他人のミスに寛容である」。EQのなかでも「共感」性に富んだ人の特徴は他人のミスを「自分にもありえる」と寛容的にとらえること。

 「自分の感情を俯瞰できる」。「自己認識」力の成果。感情に任せて怒ったり悲しんだりせず、一次元上から客観的に感情を咀嚼するといわれます。

 「聞き上手」。EQが高い人は、人の話を聞く能力「傾聴力」に優れています。興味の無い話題から楽しめるポイントを自ら見出すのは、他者と関わろうとする「動機」が人より強いせいです。 

 「モチベーションを自己管理できる」。EQの高い人は、「自己調整力」の一つとして、自分のやる気を高める術を自然に理解しているといわれます。気分や体調に影響されることなく、常に安定したモチベーションで仕事に取り組めるのは大きな強みです。

 こうしたことからEQの高い人は逆境に強く、厚い人望を構築することができます。逆にEQの低い人は自己中心的な言動をとりがちで、ネガティブな感情をうまくコントロールできず、トラブルが生じたときに適切な対応ができません。

 最後にEQを伸ばすために、日常的に意識するといい方法をお伝えしましょう。一つは、物事を肯定的にとらえる習慣を持つ。さらに、コミュニケーションを通して相手のよい部分を見つける。具体的には「1日に5人ほめる」こと。「よくやった」「頑張ってるね」といった簡単な声がけで構いません。人をほめることは、相手のやる気を高めるだけでなく、自分自身のエネルギーを上げていく効果もあります。

<参考書籍>
・『EQ こころの知能指数』(ダニエル・ゴールマン、講談社+α文庫)
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