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DATE/ 2022.04.10

なぜ電気料金はどんどん値上げされている?

 家計の大きな負担になっている電気料金の値上がり。一般的な標準家庭の電気料金を見てみると、東京や沖縄、中部、中国、東北の5電力会社で2021年1月と比べ1,000円以上の値上がりとなっています。大手電力会社10社では過去5年でもっとも高い水準で推移していて、値上がりに歯止めがかかる気配はありません。その背景にはどんな事情があるのでしょうか。

原油価格の高騰が大きな原因

 ニュースでも度々取り上げられている原油価格の高騰こそが電気料金の値上がりの原因。原油は電力そのものとの関連性はあまりありませんが、日本の電力を支えている火力発電の燃料となる液化天然ガス(LNG)の輸入価格に大きく関わっているのです。

 原油価格の高騰と液化天然ガスの輸入価格がどう関連していくのか、順を追って説明していきましょう。

火力発電に依存する日本

 まず、日本の風力、原子力、水力などさまざまな方法での発電がありますが、全体の発電量の82%が火力発電によってまかなわれています。その燃料に使われているのが、発電量の38%を占める液化天然ガス、34%を占める石炭、そして2.6%を占める石油となっています。こうした資源は海外からの輸入に頼っているため、輸入コストの上昇が電気料金に反映されるのはやむを得ないというのが現状なのです。

 液化天然ガスの輸入は、10年間などの長期契約によるものと、すぐに取引が行われるスポット契約によるものに分けられます。スポット契約は単発での契約になるため、液化天然ガスの価格高騰の影響が直撃してしまいます。ヨーロッパではスポット契約の割合が多いため、急激にガスや電気料金が跳ね上がって市民の生活に打撃を与えているというニュースも報道されています。

 日本では全体の7~8割を長期契約によって輸入をしているため、ヨーロッパのように液化天然ガスの価格の高騰の影響を大きくは受けていません。しかし、長期契約は3ヶ月分の原油価格をベースに変動するため、原油価格が上がれば価格が上がってしまいます。日本が液化天然ガスの高騰よりも、原油価格の高騰の影響を受けているのはこうしたカラクリがあるためなのです。

燃料価格変動への配慮も

 しかし、変動が激しい燃料価格をそのまま電気料金に反映してしまっては事業者や消費者の負担が大きくなってしまいます。そこで作られたのが「燃料費調整額」という項目。これは燃料費を調達するときの基準となる1kWhあたりの単価が決まっていて、原油・石炭などの燃料価格の直近3ヶ月の平均金額と照らし合わせて決められるものになっています。

 燃料価格が落ち着いていればマイナスとなりますが、昨今のように高騰が続くと調整額もそれなりの金額に。つまり、1kWhあたりの調整額がプラスになればなるほど、電気料金もつり上がってしまうというカラクリになっているのです。

値上がりはまだ続く可能性が高い

 電気料金が上がる理由としては、原油価格の高騰が招く日本の火力発電を支える液化天然ガスの輸入コストの増加、燃料価格の高騰が招く燃料費調整額のつり上げという2つの背景が見えてきたことがお分かりいただけましたでしょうか。原油価格の高騰が続く今、残念ながら電気料金の値上がりも続いていくことが予想されます。家計への負担が大きい中、少しでも節約して過ごすことが求められるのかもしれません。

<参考サイト>
・高騰!電気料金が値上げされる理由を解説!月の電気代はどれくらい高くなる? | 電力・ガス比較サイト エネチェンジ
https://enechange.jp/articles/electricity-price-increase
・電気料金、2022年1月も大手全社で値上がり 止まらない電気料金の値上げの原因を分析 | EnergyShift
https://energy-shift.com/news/4dcebf97-81bf-48f7-8407-9248098b0e59?page=3
・電気料金なぜこんなに上がるの? | NHK
https://www3.nhk.or.jp/news/special/sakusakukeizai/articles/20220128.html
・電力調査統計 結果概要【2021年11月分】|経済産業省資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/electric_power/ep002/pdf/2021/0-2021.pdf
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