テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
社会人向け教養サービス 『テンミニッツTV』 が、巷の様々な豆知識や真実を無料でお届けしているコラムコーナーです。
DATE/ 2017.02.28

知性が感じられないトランプが大統領になった本当の理由

多くの日本人が感じているトランプ大統領の謎

トランプ大統領が就任して1カ月半が経ちました。相次ぐ側近の辞任やマスコミ批判、繰り返されるTwitterでの暴言など、毎日ネタが尽きることはありません。

中でも世界が注目しているのは、中東やアフリカなど、合計7カ国からの入国を禁止した大統領令の発令ではないでしょうか。アメリカといえば、日本人の多くが「心が広く、国籍や人種を超えて全てを受け入れる自由の国」という良いイメージをもっていると思います。

それにも関わらず何故その自由の国アメリカにおいて、トランプ氏のような人物が大統領になったのか?その源流は何なのか?今、この問いに明確な答えを与えている1冊の本が注目されています。

新潮社から出版されている森本あんり氏の『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』という一冊です。

アメリカ人の4人に1人は天動説を信じている!?

本のタイトルにある「反知性主義」とはどんな考え方なのでしょうか。たとえば、日本人なら誰もが信じて疑わない「地動説」。“地球は丸くて、太陽の周りをまわっている”という説ですが、日本人にとっては当たり前のこの常識も、アメリカでは2017年の現在においても約4人に1人が知らない、もしくは信じていないということです。つまり、彼らの中にはいまだに地球が平らで空が動いている「天動説」を信じている人もいるのです。

「進化論」についても同様です。“人は神から作られた”と信じていると人が過半数を超えたのは、なんと一昨年の2015年なのです。これらに大きく影響しているのが「反知性主義」です。

宗教はインテリだけのものではない

では、「反知性主義」はいつごろから始まったのでしょう。

それに関連する出来事として、アメリカ合衆国建国前の1700年代前半にあった、2つの大きな変化をあげることができます。1つは人口増、もう1つは印刷技術(メディア)の広がりです。

印刷技術の発達により、これまで高度な知性をもつ一部の人々(司祭、神父、牧師など)にしか許されなかったキリスト教の説教や伝道活動が、そうでない人々にも広がり始めました。

中でもイングランド国教の牧師ジョージ・ホイットフィールドは、貧しく学もありませんでしたが、とにかく演説がうまく、印刷メディアを活用して、多くのキリスト教徒の心を掴んでいきました。

宗教とは「人工的に作り上げられた知」よりも、むしろ「素朴で謙遜な無知」の方が尊い
という基本的な一般大衆の感覚とともに、知的で文化的な古いヨーロッパとは違い、アメリカという新しい地には原始の知に回帰したい、という「信仰復興(リバイバル)」が大きな流れができるのです。

この信仰復興こそがアメリカの地に根付く「反知性主義」のはじまりだ、と森本氏は指摘しています。

アメリカ大統領選にも影響を及ぼした反知性主義

本書においては、この反知性主義はアメリカ大統領選においても大きな影響を及ぼしていると指摘しています。

1828年の「読み書きのできるアダムス」VS「戦のできるジャクソン」。

1952年の「知のスティーブンソン」VS「戦のアイゼンハワー」。

いずれも反インテリ=反知性主義的な候補者が勝利しているのです。

森本氏は、“アメリカ社会には昔も今も(中略)知識人の「タテマエ」と一般大衆の「ホンネ」とがぶつかり合う社会である”と指摘しており、今回の「ヒラリー」VS「トランプ」の大統領選をまさに象徴するフレーズとなっています。

この本が出版されたのは2015年。

「アメリカの大統領は頭がよければつとまるというものではない。」という一文も見受けられる本書は、まさに謎めいたトランプ大統領の誕生を理解するのにうってつけの一冊です。

トランプ大統領の言動に怒りが抑えきれない人は、一度この本を読んでみてはいかがでしょうか?トランプ本人の問題でなく、アメリカ社会が生み出した大統領なのだと改めて納得することができるかもしれません。

<参考文献>
反知性主義  アメリカが生んだ「熱病」の正体(森本あんり著/新潮選書)
http://www.shinchosha.co.jp/book/603764/
<参考サイト>
神学宗教学 研究室の窓(森本あんり氏の研究室ホームページ)
http://subsites.icu.ac.jp/people/morimoto/
~最後までコラムを読んでくれた方へ~
自分を豊かにする“教養の自己投資”始めてみませんか?
明日すぐには使えないかもしれないけど、10年後も役に立つ“大人の教養”を 5,100本以上。 『テンミニッツTV』 で人気の教養講義をご紹介します。
1

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

権威主義とポピュリズムへの対抗…歴史を学び、連帯しよう

民主主義の本質(5)民主主義を守り育てるために

ポピュリズムや権威主義的な国家の脅威が迫る現在の国際社会。それに対抗し、民主主義的な社会を堅持するために、国際社会の中で日本はどのように振る舞うべきか。議論を進める前提として大事なのは「歴史から学ぶ」ことである...
収録日:2024/02/05
追加日:2024/04/23
橋爪大三郎
社会学者
2

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景

ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か

ルネサンス美術とはいったい何なのか。これを考えるためには、なぜその時代に古代ギリシャ、ローマの文化が復活しなければならなかったのかを考える必要がある。その鍵は、ルネサンス以前のイタリアの分裂した都市国家の状態や...
収録日:2019/09/06
追加日:2019/10/31
池上英洋
東京造形大学教授
3

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

OpenAI創業者サム・アルトマンとはいかなる人物なのか

サム・アルトマンの成功哲学とOpenAI秘話(1)ChatGPT生みの親の半生

ChatGPTを生みだしたOpenAI創業者のサム・アルトマン。AIの進化・発展によって急速に変化している世界の情報環境だが、今その中心にいる人物といっていいだろう。今回のシリーズでは、サム・アルトマンの才能や彼をとりまくアメ...
収録日:2024/03/13
追加日:2024/04/19
桑原晃弥
経済・経営ジャーナリスト
4

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

新宿の歴史…かつては馬糞臭い宿場町だった「内藤新宿」

『江戸名所図会』で歩く東京~内藤新宿(1)内藤新宿の誕生と役割

江戸時代後期に書かれた地誌『江戸名所図会』(えどめいしょずえ)をひもとくと、江戸時代の街の様子や人々の暮らしぶりが見えてくる。今回は、五街道の宿場町として重要な役割を果たした「内藤新宿」を取り上げ、新宿のかつて...
収録日:2024/02/19
追加日:2024/04/21
堀口茉純
歴史作家
5

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

「和歌」と「宣命」でたどる奈良時代の日本語とその変遷

文明語としての日本語の登場(1)古代日本語の復元

日本語の発音は、漢字到来以来一千年の歴史を通してどう変わってきたのか。また、なぜ日本語は「文明語」として世界に名だたる存在といえるのか。二つの疑問を解き明かす日本語学者として釘貫亨氏をお招きした。1回目は古代日本...
収録日:2023/12/01
追加日:2024/03/08
釘貫亨
名古屋大学名誉教授