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原因と結果を取り違えるな―2005年の元切り上げに学ぶ

中国人民元切り下げによる他国への影響

高島修
シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
情報・テキスト
2015年8月に中国が行った「人民元切り下げ」は、円相場・為替相場にどう影響するのか。2005年の「元の切り上げ」を教訓に、シティグループ証券チーフFXストラテジスト・高島修氏は「原因と結果を間違えてはいけない」と警告する。この元の切り下げでドル高円安はどう動くのか?(全3話中最終話)
時間:10:23
収録日:2015/09/02
追加日:2015/09/17
≪全文≫

●2005年の元の切り上げを教訓に


 三つ目の論点は、そういう形で元安が進んでいった場合に、円安やアジア通貨安が一段と進むのかどうか、また、他の通貨への影響はどうなるのかです。この質問を受けるたびに私がお話しするのは、「2005年のことを覚えていますか」ということです。

 2005年は、先ほどお話しした、従来ずっとドルに固定されていた元の切り上げが発表された年です。そこから昨年の春まで長期的なドル安元高が続きました。この2005年の元の切り上げの発表前には、市場で元切り上げ観測がかなり高まっていました。アメリカなどからもだいぶ圧力がかかっており、近々元の切り上げが発表されるのではないかと言われていました。

 その当時、ドル円相場は、基本的には2002年ごろからの長期的なドル安円高ムードの中にありました。実際には、2004年の年末にドル円は底入れしていたわけですが、まだ2005年に入ってもドルの上値が重く、長期的なドル安円高の流れは変わっていないという見方が強かったのです。市場はいろいろなことを後講釈しますので、その時も、円高という見通しを正当化するために、さまざまな出来事を円高要因として解釈する傾向が強かったのです。その時に非常に話題になっていたのが、人民元の切り上げでした。市場では、人民元切り上げが発表されれば、当然円高になるという見方が強かったわけです。


●原因と結果を取り違えてはいけない


 若干、手前味噌になりますが、その時点で私のドル円相場の見方は、すでに円安ドル高に変えていました。アメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の利上げが進んでいましたので、長期的な円高は終わって、長期的なドル高円安に転換するという見方を示していたのです。元切り上げで円高になるという見方に対して私は否定的な見方をしていて、その時によく、このように申し上げていました。

 「元の切り上げとは、要するにどういうことか。もともと米ドルに固定されていた人民元が、2002年以降進んだドル安円高およびドル安一部のアジア通貨高に対してやはり出遅れているということがあった。ドルに固定しているがゆえに、どうしてもこうしたドル安を織り込めていなかった人民元相場を、政策的かつ事後的に修正するものである。その意味においては、ドル安や円高やアジア通貨高の結果として人民元が切り上げられるのであって、本質的な部分としては、人民元が切り上がったからさらなる円高やアジア通貨高が進むような類いのものではない。」

 要は、原因と結果、因果関係を取り違えた議論をしているということを、当時私は言っていたのです。元切り上げで円高だということで、円買いポジションもだいぶ出ていました。ですので、私はむしろ、元の切り上げが発表になったら、そのあと円買いポジションの巻き戻しでドル高円安が進んでもおかしくない、ということを言っていたわけです。実際、2005年の元の切り上げ発表後、しばらくは円高がありましたが、結果的にはドル高円安の流れが明確化していくことになりました。

 なぜ、こういったことが起こったのか。それはやはり、この元の切り上げというものを、円高・アジア通貨高とその背景にあったドル安の結果と見ているのか、それとも、それをさらなる円高やアジア通貨高を促す原因と見るのか、この部分で見方が違っていたからです。この二つの側面は、履き違えてはいけない問題です。

 これを今の状況に当てはめると、元の切り上げか切り下げかという違いはありますが、今回元の切り下げも、人民銀行も主張しているとおり、過去数年間で進んだドル高円安・アジア通貨安の結果として割高化した元相場をあるべき水準に調整する意味合いが強いのです。ですから、今回においても、元の切り下げは、過去進んできた円安・アジア通貨安の結果なのであって、本質的な部分で、さらなる円安やアジア通貨安を促すものではありません。この原因と結果を履き違えないようにしなければならないということを申し上げたいわけです。


●中国株下げ→日本株下げ→ドル安円高?


 中国市場の変化がドル円相場に与える影響として、基本的に中国の株価の上げ下げは米株の上げ下げとともに日経平均に影響を及ぼす傾向があります。海外投資家の一部は今、日本株に投資するときに、為替ヘッジをつけて投資しています。通常、長期の海外投資家は、日本株を買うときには、ドルを売って円を買い、その買った円で日本株に投資します。これが大半の海外の長期投資家なのですが、一部の海外の長期投資家は、ドルを売って円を買い、その買った円で日本株に投資する傍ら、為替マーケットにおいて円売りポジションをつくることによって、日本株投資の為替ポジションをドル建てにする、為替中立化を図ることをやっています。そうなる...
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