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松下幸之助が語った「反省」の重要性

松下幸之助を語る(4)「自己観照」と日本の伝統精神

江口克彦
株式会社江口オフィス代表取締役社長
情報・テキスト
「序の舞」上村松園
松下幸之助がよく言っていたのは「自己観照」、すなわち自分を見つめることの重要性だったと、幸之助の側近で参議院議員の江口克彦氏は語る。よいことも悪いことも含め反省することが大切だ。これは日本の伝統精神そのものだと言う江口氏。神道や日本刀、日本画が示すのは、各人が自分を主体的に見つめるという伝統であり、そこに日本人の本質がある。(全5話中4話目)
時間:11:31
収録日:2015/09/29
追加日:2015/12/07
≪全文≫

●布団に入って1時間の「反省」を


 松下幸之助さんは、自分を見つめろ、すなわち自己観照ということをよく言っていました。禅語で言えば、脚下照顧(きゃっかしょうこ)ということでしょうか。自分の足元を見ろということにつながってくるのかもしれません。自分を見て、そして改めるべきものは改め、伸ばすべきものは伸ばす。

 「反省」という言葉もよく使いました。反省というと、こんなことを思い出します。松下さんは「君、布団に入ってすぐ寝るか」と聞くのです。私はすぐ寝ることが非常に健康的だと思っていましたし、実際帰ったらすぐにバタンキューでした。毎晩毎晩、家に帰るのは夜の11時半か12時ですから。7時から11~12時半まで松下さんとしゃべっているわけです。それで翌朝6時に起きて、もうPHP研究所に仕事に行くという状態でした。それがまた健康だと思ったので、「すぐ寝られます」と答えました。布団に入ったら、5分も経たないうちにもう眠ってしまいますと言ったら、松下さんがニコっと笑って「君、それはあかんで」と言う。何が駄目なのかと思って、「なぜですか」と聞いたら、布団に入ったら、1時間は今日1日あったことを振り返ってみないといけないというのです。布団に入って1時間、振り返るのかと聞き返したら、「君、反省は大事やで」と言う。

 そうですかということで、その晩から布団に入っても1時間眠らずに1日あったことを考えようと思って、その晩布団に入ったのですが、また5分も経たずに寝てしまいました。どう努力しても、なかなか1時間も起きていられなかったのです。


●いいことも悪いことも振り返るのが「反省」である


 あの人の反省というのは、悪いことを思い出して「あれはこうしよう」とか、「あれは駄目だったな、あれはこうすればよかったな」ということが反省ではないのですね。いいことも悪いことも振り返れということです。あれはよかったなと思い出して、どうしてあれはうまくいったのか、それをさらによくするためにはどうしたらいいか、これを考えるのも「反省」なのですね。

 反省というと、「反省ならばサルでもできる」なんてありましたが、悪いことを考えます。もちろん好ましくないことや失敗したことを振り返ることも大事です。なぜ失敗したのだろうか。あの失敗をもう繰り返さないためには、どうしたらいいか。これを考えるのも反省ですね。だけど、いいことも振り返る。あれでうまくいった。しかし、もっとうまくやるにはどうするか。こういうことが反省だということになるわけです。反省ということは、取りも直さず、自分を見つめなさいということです。こういうことをよくよく言っていました。あの人の好きな言葉で、「自己観照」ということも言っていました。


●「自分を見つめる」という日本の伝統精神


 これは、日本の伝統精神でもあるわけです。松下幸之助さんの挙げていた日本の伝統精神は三つあります。「首座を保つこと」「和を貴ぶこと」、そして「知恵を集める」ことです。「首座を保つこと」は、自分を見つめるということにもつながってくるわけです。

 大体、日本文化というのは、自分を見つめるということが一つのDNAになっています。神宮とは伊勢神宮のことですが、伊勢神宮のご神体は、鏡なのですね。ご神体が鏡というのは、ものすごく面白いと思います。皆さんも伊勢神宮に行って、手を合わせます。それは神様に手を合わせているということになるかもしれないですが、そうではない。鏡だから、実は自分が写っているわけですね。

 結局、日本の神道というのは、詰まるところ自分で考えろということにもなるわけですね。だから、自分で自分を見つめる、自己観照ということは、結局は、神道の基本の基本ということになるのかもしれない。三種の神器のうち、熱田神宮に太刀があり、それから皇居に勾玉がある。しかし神宮の、言ってみれば大元締めの伊勢神宮のご神体が鏡だというのは、実に興味深いことだと思います。要するに、自分で自分を見つめるということが、日本の一つの伝統、あるいはまた精神的風土かもしれないと思うのです。


●刀の切っ先は自分に向いている


 刀というものもそうです。日本刀というのは、反っているのですね。フェンシングがそうであるように、ヨーロッパの剣というのは、突き刺すというか、真っすぐになっているものが多いのです。それに対して日本の場合には、微妙に反っている。

 暁烏敏さんという有名なお坊さんが大正から昭和初期に書いたもので、『楕円と円』という本があります。もう絶版になっているかもしれませんが、その本によれば、結局は、日本の文化というのは、直線の文化ではなく円の文化だということです。相手に刀を突き付けているけれども、その刀の延長線上を点々で伸ばしていくと楕円...
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