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木造建築の耐震・耐火性能は都市なら鉄骨・RC造並みが必要

都市木造の可能性~木造ビルへの挑戦(5)より豊かな都市空間へ

腰原幹雄
東京大学生産技術研究所 教授
情報・テキスト
「木造」といえば問われる耐震性、耐火性。だが木造建築が強度で劣ったのは過去の話。技術の向上は鉄骨・RC並みの強度を実現し、木造による大空間さえも現実のものとした。東京大学生産技術研究所教授・腰原幹雄氏が都市木造建築の可能性を語るシリーズ「都市木造の可能性」最終回。
時間:08:05
収録日:2015/10/06
追加日:2016/02/11
タグ:
≪全文≫

●阪神大震災以後、耐震性は飛躍的に向上


 都市部に木造建築をつくるといっても、何でもいいわけではありません。木造建築が都市部で建てられなくなった原因である防耐火性能については、当然ながら、鉄筋コンクリート造や鉄骨造の都市建築同様の性能を持たなければなりません。そのための技術開発は、どんどん進められています。地震に強い木造建築、火災に強い木造建築が生まれてきています。そうした技術開発の結果、都市部にも鉄骨造、RC造と同じようなビルを木造で建てることができるようになりました。

 木造建築というと、阪神淡路大震災(兵庫県南部地震)で木造住宅がたくさん倒壊し、木造住宅の耐震性は低いなどということがよく言われていました。しかし、それからもう20年たっています。兵庫県南部地震をきっかけに、木造住宅の耐震性向上に関する技術開発は著しく向上しています。現行の建築基準法に基づいて建てられた木造住宅であれば、兵庫県南部地震地震動を受けても安全が確保できる建物が建設できるようになっています。


●木材性能の数値化が構造解析を可能にした


 この技術の背景には、木造建築でも構造解析ができるようになったことがあります。それまでの大工の経験則に基づく建築から、工学的に評価できる建築が生まれるようになりました。構造解析ができるようになれば、当然、地震力、台風、鉛直荷重といったさまざまな外力に対して、安全であるかどうかを確認することができます。

 そこでもう一つ登場するのが、先ほどの再構成材に登場する「エンジニアードウッド」です。エンジニアードウッドとは、構造的な性能が明らかな材料の呼称で、再構成材だけではなくて成材も含みます。エンジニアードウッドには、木材のヤング率(弾性)、強度などが明確に表示されており、性能が担保されています。そうした材料を使って構造解析をすることにより、木造建物の安全性を確保できるようになったのです。

 これまでは木造住宅の解析技術でしたが、近年そうした木造のビル、多層の木造建築についても、振動台実験や構造解析によって安全性が確認されました。その結果、都市において4階建て、5階建ての木造建築が生まれるようになったのです。


●燃える木を使いながら、火災に対して安全


 一方、防耐火の面で見ると、一つ目の技術は、準耐火建築における「燃えしろ設計」という技術です。木は燃える素材ですが、花火のように爆発的に燃えるわけではありません。ゆっくりと燃える。これが木の燃え方の特徴です。ゆっくり燃えるということは、燃え方をコントロールすれば、安全な時間を確保することができるということになります。木材は、1分間に0.7ミリから0.8ミリぐらい燃えます。だとすると、建物から逃げるのに1時間必要だとすれば、その60倍、0.7ミリであれば42ミリ、約60ミリメートルの木の燃える時間に相当します。1時間で燃えなかった部分で建物の安全を確保することができれば、その間に、建物の中の人は十分避難することができます。これが燃えしろ設計です。燃える木を使いながら、火災に対して安全な建物をつくる技術が生まれてくるのです。

 この延長線上にあるのが耐火建築物で、もう一つは、「燃え止まり型建築」になります。都市部に建つ大きい建物は、準耐火建築物だけではなく、より性能の高い耐火建築物であることが要求されます。耐火建築物の場合には、逃げる時間の安全だけではなく、もし消防車が来なくても、火災が自然に鎮火することが重要です。地震のあとなど、消防車が十分に消火活動をできないような場合でも、燃えて倒壊しないことが要求されます。

 燃える木材にとって、燃えない、あるいは鎮火することは非常にハードルが高いことです。その技術開発が、ここ数年、進められてきました。燃やさないようにするためには、一番簡単なのは、燃えないもの、たとえば石膏ボードのようなものでくるんでしまえばいいわけです。しかし、せっかく木造なのに木が見えないのはもったいないと言われてしまいます。そこで、木は見える、つまり木が燃えるけれども、安全に燃える方法を考える、あるいは、安全に燃える建物をつくるということが、都市部に建つ木造建築には求められます。

 そこで生み出されたのが燃え止まり型部材です。これは、先ほどの燃えしろ設計と同じように、外側に5~6センチメートル厚の木の板をつけたもので、そこが1時間ぐらい燃焼しますが、しかしそこまでしか燃焼しない。そして、その先に、少し処理をした木材で、それより先には燃え進まないように止めてしまう。つまり、火災によって燃えるものがなくなってしまえば、鎮火をするというようなことが目指されるわけです。


●新しい木造建築が都市空間を豊かにする


 こうした技術が生まれたこ...
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