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ロシア主催の「裏G7サミット」の話題はシリア情勢だが…

モスクワ国際安全保障会議(1)伊勢志摩サミットの裏側で

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
情報・テキスト
第5回モスクワ国際安全保障会議パンフレット
「第5回モスクワ国際安全保障会議に出席してきました」と語るのは、歴史学者・山内昌之氏だ。その会議は「G7と背中合わせ」だという。一体どのような会議で、何が語られたのか。山内氏が存分に明かす。(全4話中第1話)
時間:11:06
収録日:2016/05/09
追加日:2016/06/16
カテゴリー:
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≪全文≫

●第5回モスクワ国際安全保障会議の主な話題は最新のシリア情勢


 皆さん、こんにちは。私は4月27日と28日の両日にわたって開かれた「モスクワ国際安全保障会議」に出席してまいりました。

 今年で第5回を迎えるモスクワ国際安全保障会議とは、ロシアの同盟友好国を中心にして、NATOやアメリカに対抗して国際安全保障を語るための国際会議です。表向きはテロ対策を主なテーマとしていますが、アメリカの脅威に対抗するために行われています。ロシア、中国をはじめとして、イランやシリアなど中東の国々、東南アジアの国々、それにアフリカからもロシアの支援を受ける多くの国々の代表が参加しました。米欧や、名指しこそされていませんが、日本、オーストラリアなどとは異質な戦略を追求している会議で、そうした国々から政府代表、国防省・防衛省の担当者などが出席することは基本的にありません。

 今年の主な話題は、何といっても最新のシリア情勢です。また、イランの核開発合意におけるロシアの積極的な役割を国際世論に向かって誇示することも一つの大きな目的でした。中国などの多人数の随員を含め、全世界80カ国と国際組織の代表がおよそ500人も集まる大掛かりなものでした。そのうち17の国々からは、安全保障政策の責任者である国防大臣自らが参加していましたが、私の印象としては、中国、シリア、イランの国防大臣の存在感が際立っていました。


●G7伊勢志摩サミットと背中合わせの性格をもった会議


 まずは主催者ロシアのセルゲイ・ショイグ国防大臣、セルゲイ・ラブロフ外務大臣などが全体のオープニングセッションで話した演説の内容を、私なりにかいつまんで紹介してみたいと思います。

 ショイグ国防大臣は、現状において行われているテロとの戦いの重要性を強調しました。これ自体は問題ないのですが、併せてロシアとNATO、アジア太平洋地域の諸国との関係を「点検する」という言葉を使っていました。おそらくはNATO、日本、カナダ、オーストラリアといった諸国との戦略的関係をもう一度子細に吟味するということでしょう。また、シリアとの関係について触れることが多かったのも特徴的でした。ロシアとシリアの関係は数十年続いてきたもので、アラブの春以降、苦境に立ったシリア政府を援助しているだけの新しい関係ではないと強調していました。

 私にとって特に興味深かったのは、第5回モスクワ国際安全保障会議は、G7伊勢志摩サミットを念頭に置き、事前に国際安全保障の観点でロシアの立場をはっきりさせておこうという、対抗的な動機に裏付けられていることが明白だったことです。あたかもG7伊勢志摩サミットを鏡で見たようなもので、背中合わせの性格を持っていました。同じテーマを扱っても、立場が違えばここまで視点が違ってくるのかと何度も思わされました。

 例えば、「世界の情勢不安を煽り、世界の平和を損なっている張本人は、アメリカとその同盟国だ」とはっきり指摘したことです。特に、NATOの一員・トルコへの批判があちらこちらで目に付きました。トルコが冒険主義的な施策を取り、ロシア空軍の戦闘爆撃機を撃墜したことで明らかなように、ロシア攻撃を加速化している点に厳しい批判が寄せられました。ショイグ国防大臣は、「トルコの侵略的政策はシリアに関する国内安保理決議に違反するもので、許すことはできない」と明示的に語っていました。

 そして、トルコを含めたNATO、アメリカの政策を抑えるメッセージを発するのが会議の目的だと明言しました。アメリカの政策を公然と批判して、このように述べたのです。

 「外国勢力による他国への干渉や、国際法規を外れた軍事手段による紛争解決は停止すべきだ」

 これは、トルコによるロシア軍機の撃墜や、アメリカによる他国への干渉のことを言いたいのでしょうが、一方で他ならぬロシアにも当てはまることではないかというのが、当然ながら私の頭をよぎった疑問でした。


●アメリカはテロリストを善人と悪人に分けている


 実際、ロシアの関心は高角度で、アメリカのミサイル防衛システムがヨーロッパに配備されることに対する危機感も強くありました。こうしたアメリカの態度が世界の平和と安定を脅かしていると批判したのです。また、アメリカが原子力を平和目的で使用しているイランの核開発、すなわち「これは原子力の平和利用である」ということをことさらに歪曲し、ウィーンにおいてイランと最終合意を結んだ後も、イランの経済制裁などの解除に向かって本気で進んでいないと批判したわけです。

 「一部の当事者たちは、テロリストを善人と悪人に分けようとしている。それは犯罪的な行為だ」という表現もかなりドラスティックでした。「テロリストを善人と悪人に分ける」というのは、アメリカ...
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