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保守党が敗北したイギリス総選挙―EU離脱交渉の行方

2017年イギリス総選挙とメイ首相の誤算

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
概要・テキスト
テリーザ・メイ首相
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏が、2017年6月に行われたイギリス総選挙の結果を取り上げ、保守党敗北の原因、今後のイギリス政治の方向、そして前途多難なEU離脱交渉について解説する。曽根氏はこの総選挙の結果について「メイ首相の判断ミス」と指摘するが、実はそこにはキャメロン前首相が国民投票に訴えた時と同じ問題があった。
時間:10:11
収録日:2017/06/23
追加日:2017/07/10
カテゴリー:
≪全文≫

●「総選挙」はメイ首相の判断ミス


 イギリスの総選挙の結果についての解説をいたします。結論から言いますと、テリーザ・メイ首相の判断ミスでした。デービッド・キャメロン前首相もEU離脱の国民投票をすることによって、イギリスを大混乱に陥れました。これと同じようにメイ首相も、総選挙に訴えることで、過半数だけでなく、圧倒的な多数を議会で獲得して、EU離脱の交渉などをうまく進めようと思ったのでしょうが、結果は過半数の議席さえ取れませんでした。よって、連立政権になります。

 連立というのは簡単なことではありません。相手が小さいために簡単に進むのではないか、と思う人がいるかもしれませんが、小さい政党の無理難題を聞かざるを得ない、というのが連立政権です。


●相対多数制で過半数をとれなかったのはメイ首相の誤算


 では、選挙結果を少し見てみましょう。650議席の中で、保守党は議席を減らしました。331議席から318議席に減少しました。一方、労働党は232議席から262議席に増やしました。もう一つ、興味深いのは、スコットランド国民党(SNP)が前回は56議席、それが今度は35議席に減っています。また、イギリス独立党(UKIP)は、議席が0です。

 こうして考えてみると、イギリス政治はどちらに動いているのか、という疑問が出て来ると思います。保守党としては300議席は取ったとしても過半数に至らない。イギリスの政治は基本的にはプルラリティ・ルール(plurality rule)、つまり小選挙区相対多数なのです。この制度は、競争が大体2党に収斂するため、過半数を取りやすい制度です。

 前回は保守党が「運よく」と言っていいでしょう、過半数を取れたのです。しかしながら、今回はこの制度であるにもかかわらず、過半数を取れませんでした。事前の世論調査では、野党はボロボロで、特に労働党に関しては支持が低いとほとんど言われていたのですが、選挙直前で急に拮抗してきて、ほぼ差がなくなってきたのです。そういう意味でいうと、今回総選挙に打って出れば、圧倒的に議席を持ち、そのことによってEUの交渉ができると考えたテリーザ・メイの戦略は、見事に外れました。


●総選挙に訴えたがための敗北、連立政権模索へ


 このことは、実はキャメロン首相の時も同じ問題があるのです。どういう構造かというと、キャメロン氏も保守党内部の強硬派、離脱派を説得できなかったの...
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