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デジタルディスラプションは2014年から始まっている

AIとデジタル時代の経営論(3)デジタル化の渦

一條和生
一橋大学名誉教授
情報・テキスト
Digital Vortex(デジタル化の渦)
GLOBAL CENTER FOR DIGITAL BUSINESS TRANSFORMATION
一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長・教授の一條和生氏が、デジタル化時代に訪れる危機について解説する。IMDの2015年の調査によれば、新しいデジタル・ビジネスモデルの登場に、世界の経営者はかなりの危機感を抱いている。テクノロジーやメディアのみならず、教育や製薬もデジタル化の影響は避けられない。(2017年7月24日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「AIとデジタル時代のリーダーシップ」より、全9話中第3話)
時間:09:34
収録日:2017/07/24
追加日:2017/10/24
≪全文≫

●2014年にはすでにデジタルディスラプションは始まっていた


 デジタル時代に対する危機感は、世界中の経営者に共有されています。それを示すのが、「デジタル化の渦(Digital Vortex)」というIMD(International Institute for Management Development、国際経営開発研究所)のサーベイです。IMDは、徹底的に経営者教育に特化したビジネススクールです。MBAは90人しかいません。ハーバードビジネススクールは毎年800人の卒業生がいますから、それと比べると10分の1です。

 ただしキャンパスでは、毎日平均500人のエグゼクティブが勉強しています。世界中のエグゼクティブがIMDを訪れます。IMDはスイスにありますが、ヨーロッパだけではなく、中東やアフリカ、アジア、中国、日本、あらゆるところから来ます。そして、とにかく勉強します。勉強といっても、やはり非常に実践的です。IMDのスローガンは、「REAL WORLD, REAL LEARNING」です。実践的な世界で、実践的な勉強をするということです。常に新しいことを取り入れて、それを学びます。授業や研究の内容も、常に最先端です。

 そのIMDが2015年に発表したのが、「デジタル化の渦」という調査です。2015年発表ですから、データ収集は2014年に行われています。つまり、ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長の柳井正氏が、有明に物流拠点をつくると言ったときと、ほぼ同時期です。その時からすでに、デジタルディスラプション(Digital Disruption、デジタル破壊)の動きは始まっていたのです。


●新しいデジタル・ビジネスモデルが急増している


 この調査は、世界中の12種類の産業分野、941人のビジネスリーダーを対象にしています。現在、新しいデジタル・ビジネスモデルが急増している中で、変革への意識を聞いたものです。

 例えば、新しいビジネスモデルの特徴には、price transparency(価格の透明性)があります。Everlaneが行っていたものですね。あるいは、consumption-based pricing(使用量に応じた値段設定)。ミシュランは、タイヤの走行距離によって値段を変える方針を打ち出しました。さらに、experience value(経験の価値)です。日本語では「モノからコトへ」と言いますが、「コト」は英語だとexperienceです。つまり、出来事です。出来事の中で、会社の提供する物やサービスがどのような価値を持つのかということです。他にも、いろんな人とつながっていく、platform value(プラットホームの価値)もあります。

 こうしたデジタルテクノロジーを活用した新しいビジネスモデルが、どんどん生まれてきている状況です。これらを実行するのは、そう簡単なことではありません。そのためには社員の意識を変える必要があるでしょう。


●デジタル破壊の結果、10社のうち4社がトップテンから消える


 こうした新しいビジネスモデルの登場に対して、世界の経営者は驚くほど強い危機感を抱いています。IMDの調査では、次のような質問を行いました。「デジタル破壊の結果、あなたの産業では、今後5年内に、何社がトップテンからランキング外に落ちますか」。全産業の平均は、3.7社がランキング外に落ちるというものでした。10社のうち4社は、トップテンからいなくなるだろう、と予測されているのです。

 一番危機感が強いのが接客・旅行(Hospitality/Travel)、次にフィンテック、そして柳井氏が危機感を抱いている小売りと続きます。私たちも他人のことは言えません。小売りに次いで危機感が高いのが、教育です。


●ビジネススクールではブレンディッドラーニングが必須である


 ビジネススクールでは、ブレンディッドラーニング(blended learning、ブレンド型学習)を提供できなければ、今後成り立っていきません。ブレンディッドラーニングとは、クラスルームでのディスカッション、現地、例えばインドのバンガロールでのフィールドワーク、そしてウェブ上でのプロジェクトマネジメント、これらを全て連動させる学習です。

 これは企業で今、実際に行われていることと同じです。現地現物での取引、スカイプでのディスカッション、さらに対面の会議と、全てがつながっています。これをうまくマネジメントする力は、ビジネスで必須です。だとすれば、こうしたことが身に付かないビジネススクールに、学生は来なくなるでしょう。

 私が教授を務めているマドリードのIEビジネススクールは、世界一のブレンディッドラーニングを行っています。ウォウルーム(WOW ROOM)という教室があり、広さはこの部屋の3倍ほど、壁一面に液晶パネルが60枚ほど並んでいます。そこには授業に出ている学生の顔が、映し出されています。その前に先生が立ち、TEDのような形で授業を行います。言わばエンターテイメント、パフォーマンスです。

 しかし、もっとすごいのは、カメラ...
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