●大統領選挙の本当の勝者は、バーニー・サンダース氏だ
ヨーロッパでは、極右の進出がこの数年来、問題になっています。ところで、2016年のアメリカの大統領選挙の本当の勝者は、ドナルド・トランプ大統領なのでしょうか。FBI長官をいきなり解任するなど問題が続いていますが、もしかするとトランプ大統領が弾劾されて、職を投げ出さざるを得なくなる可能性もあります。結局、大統領選挙の本当の勝者は、もしかしたら民主党でヒラリー・クリントン氏と指名争いを行った、バーニー・サンダース氏なのではないかと、私は思っています。
もちろん得票数では負けましたが、サンダース氏の発したメッセージは、若い人を中心に、あれほどまでに多くの人を熱狂させました。クリントン氏がなぜ本選で負けたかといえば、民主党内の予備選で、あの体たらくだったからです。「社会主義」などと言い出した、あの高齢のサンダース氏に押されまくったのです。なんと情けない本命候補かと思いました。クリントン氏の敗北は、予備選ですでに決まっていたのです。サンダース氏の勢いこそが、何か大きなものを示していたということです。
●既存の勢力がつくり出した極右危機
2017年春のフランスの大統領選挙でマリー・ルペン氏が2位に着けて、極右の台頭に危機感が高まっています。2016年暮れのイタリアの選挙もそうですし、オランダ、オーストリアでも同様です。極右が第一党になるか、大統領になるかといった危機感があります。どこの国も、何とかそれを紙一重で防いでいるのです。だから、エマニュエル・マクロン氏がフランスの大統領選に勝利し、マクロン政権が発足したといっても、EUの従来の既存勢力が勢いを盛り返したわけでは決してありません。恐らく次の大統領選挙では、またルペン氏が、より力を得てカムバックする可能性があります。早速フランスだけでなく世界中のマスコミが、そのように報じています。
これは、ある意味で時代が変わったのに、それに気付けず手当てをしようとしない、既存の勢力がつくり出した極右危機です。見せかけの危機です。リーマンショック以後、各国ともに、格差や緊縮財政など、社会保障問題が政治の一番の焦点になりました。恐らく2008年のリーマンショックを境に、経済のパラダイムがマーガレット・サッチャー元イギリス首相の時代から一回転したのでしょう。新自由主義的な潮流、あるいはグローバルエコノミーという大きな潮流が、ここで終わるとは言いませんが、それに対して各国の民主主義の中では不満が出てきているのです。
こうした状況では、極右に票が流れても当然です。職はない、あるいは年金が打ち切られる、あるいは教育費が次々とカットされて大学進学が不可能になる。実際に、こうした流れが極限まで来ていたのです。それに気が付くのが遅すぎたために、極右がこれだけはびこってしまいました。この流れをしっかり捉えなければなりません。
●市場経済に反対するソーシャリストが票を伸ばしている
2017年春のフランスの大統領選挙でもそうです。第1回目の投票では、マクロン氏が1位、ルペン氏が2位、中道右派のフランソワ・フィヨン氏が3位、そして左翼党のジャンリュック・メランション氏が4位でした。メランション氏も、サンダース氏と同様、よく聞いたことのないおじさんです。60代で風采も上がらないし、びっくりするほど市場原理を無視することを言い出します。「自己責任なんて言葉は死語にしろ」といった、国家丸抱えのような議論をします。ところが、この人が意外にも票を伸ばしました。
もちろん抗議票でしょうが、左派リベラルよりももっと左の立場、市場経済に反対するようなソーシャリストが、ものすごく票を伸ばしてきているのです。サンダース氏、あるいはメランション氏が党首では、普通に考えて、人気は出ません。風采は上がらないし、年も取っているし、言葉も古く、スター性は全くありません。しかし票が集まるのです。これはおそらく、日本でもいずれ起こる次の現象でしょう。
●グローバル化をより人間らしいものにする必要がある
極右が日本でも出てくるとなると、これは危険です。しかし極右の波は、もしかしたら日本には起こらないかもしれないし、起こっても一過性で終わるかもしれません。ヨーロッパもそうだと思います。しかし、次の時代の本当の趨勢は、反格差・反緊縮にあります。サッチャリズム、レーガノミクス以来、もう三十数年がたちましたが、車輪は完全に一回りしました。時代は、サッチャー・レーガノ時代からむしろ対極のパラダイムへとシフトしつつあるのです。
グローバリゼーションは、実際に世界に根付いた現実です。これを元に戻すとなると、それこそ極右でないとできません。しかし、民主主義において極右が政権を取れるはずはありませ...