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コロッセオ建設が意味するローマ帝国の安定

フラウィウス朝時代~ローマ史講座Ⅶ(2)倹約家の皇帝とコロッセオ

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
コロッセオ
早稲田大学国際教養学部特任教授・本村凌二氏による「フラウィウス朝時代」のローマ皇帝物語。ローマ正統の生え抜きの血筋ではないものの、時代のはまり役として登場した皇帝ウェスパシアヌス。かなりの倹約家の皇帝であったが、その中で行った唯一のぜいたくがコロッセオ建設だ。実はここに古代ローマの安定が見て取れる、と本村氏は言う。(全5話中第2話)
時間:11:44
収録日:2017/11/17
追加日:2018/03/20
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≪全文≫

●実直、倹約家、そしてユーモアもあったウェスパシアヌス


 ウェスパシアヌスは金銭には非常に細かいところがあって、俗にいえばけちくさいところがあったと言われています。しかし、それ以外では、特に非難される欠点もありませんでした。また、非常にどっしりとして頑強で、少し武骨な顔、俗な言い方をすればイケメンではない、そういう顔をしていました。

 しかし、彼にはユーモアもありました。彼に対して非常に思いを寄せた女性がいました。ウェスパシアヌスも悪い気はしませんから、彼女を愛人のように扱っていたわけです。それで、いろいろな贈り物をするのですが、その出費を自分の財布ではなく国庫から出してくれ、と言うのです。国庫の会計係が「いくら皇帝様であられましても、愛人はご自分の問題ですから、ご自分の財布からお出しになったらいかがですか」と言った時、ウェスパシアヌスは「自分のような醜男に情けをかけてくれたというのは、国家的貢献だ」といったユーモアで返し、国庫から出すように伝えたそうです。彼はそうしたしゃれっ気のある人だったのです。

 彼は亡くなる時までそうした冗談の精神を持っていたらしく、何かとそのような逸話が残っています。例えば、皇帝は亡くなると神格化されるわけですが、「私もいよいよ神になりそうだな」というようなことを話したともいわれています。


●正統性を自らの生き方で示す


 ネロ帝の時代には処刑があったり財産没収があったりしたのですが、その後の内乱による混迷で、古来の名だたる貴族の血筋がほとんど途絶えてしまいました。そのために、ウェスパシアヌスは、新しい所から人材を集めてくることに対しても非常に配慮をしたので、彼の周りには有能な人材が集まりました。

 一方、彼は非常に温厚ではありましたが、自分の意思を貫くということに対しては妥協を許さず、確固たる姿勢で臨みました。ユリウス・クラウディウス朝の血筋が、ネロが亡くなったことで途絶えたわけですが、新しい為政者も結局、正統性が問われるわけです。彼はそのことに対し、自分の生き方そのもので示すことによって、多くの人々の敬意を集めたのです。


●しまり屋の皇帝の唯一のぜいたくがコロッセオ建設


 それから、今、ウェスパシアヌスは非常にしまり屋でけちだったと言いましたけれども、たった一つだけ、ものすごいぜいたくをしたことがあります。コ...
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