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単なる複製ではない「クローン文化財」とは?

クローン文化財とは何か(1)文化の継承と平和のため

宮廻正明
東京藝術大学 名誉教授
情報・テキスト
クローン文化財は単なる複製ではない。現代の複製技術を用いながら、日本独特の継承方法によって、文化財を保存しつつ観光にも活用する。さらに、文化に込められた平和という価値も継承することができる、と東京芸術大学名誉教授の宮廻正明氏は語る。(全2話中第1話)
時間:12:53
収録日:2018/07/03
追加日:2018/10/25
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≪全文≫

●単なる複製を超えたクローン文化財とは?


 東京芸術大学名誉教授の宮廻正明と申します。今日は「クローン文化財」についてお話をします。

 最初は「複製」と言っていたのですが、海外に持って行くと「コピー」ということになります。そして、その言葉のまま「コピーを持ってきました」というと、世界中どこに持っていってもほとんど相手にされません。そこで、何かいい言葉はないかと考え着いたのが、「クローン文化財」です。

 春先に上野をずっと歩いていくと、上野の森は桜が満開で、皆さんが桜見をしています。しかし、実はこの桜、つまりソメイヨシノはクローンなのです。日本でこれだけ親しまれているものがクローンである、ということに、あまり気が付いていない方が多いのです。そこで、この案件を明確に表すとクローンなのではないかということで、「クローン文化財」という形で商標登録しました。

 実は、最初は複製、すなわち、本物と全く同じものを作り出すということを目標にしたのですが、これまでこのような行為は「贋作」といわれて、犯罪に近いものだとされました。しかし、物をつくること、それ自体は犯罪ではありません。扱い方をしっかりすればいいということなのです。そこで、「文化を、今までは一つしかない、独占的だったものから、共有という形のものにできるのではないか。このクローンの管理をしっかりするという条件付きで同じものをつくればいいのではないか」と考えました。

 今は同じものをつくる際、非常に高精細なデータが手に入りますし、それから東京芸術大学には、物づくりに長けた人がたくさんいます。そうすると、ものをつくるときにその構造を熟知している人材を起用できるので、下地から全く同じものをつくることができる。さらに、今まではデジタルが現実というものを取り入れることはタブーだったのですが、私の代において、デジタルとアナログを融合させる、むしろ融合ではなく混在させるようになりました。それぞれの特徴をうまく混ぜると、非常に高精細で、なおかつ優れたものができます。

 この場合の最たる特徴は、時間が非常に短縮できるところです。今まで模写をしようとすると、1年、2年、あるいは例えば法隆寺の壁画を模写するのには10年以上もかかっていました。それが数カ月でできるようになったのです。また、人がつくるとその人の個性や癖が出ますが、クローン文化財の場合は、非常に客観的に形を取ることができます。つまり、クローンは迅速に、そして癖がなく、非常に正確に記録として残すことができるということです。そこで考え付いたのが、「クローン文化財」ということなのです。


●クローン文化財の目的


 現在、優れた文化財において世の中で問われているのは、保存と公開についてです。最高の保存はものを見せないで閉まっておくことです。そうすると、ほとんどの人がその国宝を見ることはできません。しかも、公開されたときには、長蛇の列ができます。

 そういう意味で、保存という方法があり、反対側には公開という方法があるということです。そこで今、保存と公開を同時にできる方法はないか、ということで考え付いたのがクローン文化財で、まったく同じものを活用して公開する方法が取れるのではないかということでした。

 公開の1つの目的に、観光に使えるということがあります。地方創生のためや、経済的に貧しい国などの観光の目玉として、クローンでできた文化財を公開するということです。また将来的には、例えばミャンマーのパガン遺跡や、アフガニスタンでの戦争でタリバンによって壊された壁画など、今はなくなってしまったものも復元することができるでしょう。つまり、人災や火災、自然災害によって破壊されたものを、残されていたデジタルなアーカイブによって、現在に蘇らせる。このようなことができるところが「クローン文化財」の最たる特徴なのです。


●日本の文化の継承方法を世界へ発信


 2016年に行われた伊勢志摩サミットで、日本の文化財の継承方法ということで各国首脳にプレゼンテーションするように日本政府から頼まれました。1時間ほど時間をいただいて、バラク・オバマ大統領やアンゲラ・メルケル首相などの前で、「日本が持っている文化財の保存」について、世界に向けたお話をさせていただきました。

 その時は、現在進めているアフガニスタンと法隆寺のクローン文化財の作品を持っていきました。戦争によって破壊されて現存していないアフガニスタンの文化財、火災によって焼損してしまった法隆寺の文化財を展示し、ご覧になった皆様に触っていただいたのですが、1時間があっという間に過ぎました。

 その時のことが認められて、2016年12月に行われたアブダビでの国際シンポジウムで、「文化財のこれから」について提唱させて...
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