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「クローン文化財」の不可能を可能にする再現性

クローン文化財とは何か(2)何が可能になったのか

宮廻正明
東京藝術大学 名誉教授
情報・テキスト
技術の発展に伴い、クローン文化財の応用可能性は高まっている。触れることができることで現物とは異なる示唆を与える。また失われた壁画もデータから復元できる。クローン文化財は人々が注目しないことに可能性を見いだし追究した成果だ、と東京芸術大学名誉教授の宮廻正明氏は語る。(全2話中第2話)
時間:04:10
収録日:2018/07/03
追加日:2018/10/26
≪全文≫

●「バベルの塔」を拡大して再現


 これは、ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館(オランダ)にある、「バベルの塔」というピーテル・ブリューゲルの作品です。これは20号(約72センチメートル×50~70センチメートル)くらいの大きさの作品で、ここに実は1400人ほどの人物が描かれています。しかし、その大きさではほとんど分からないので、今回われわれはこれを全く本物と同じやり方で拡大しました。この作品は板に描かれているのですが、板の上に下地を作り、絵の具も全て本物と同じように盛り上げることによって、触れる文化財として製作しました。

 これは、2017年にブリューゲルの「バベルの塔」の展覧会が「トビカン」(東京美術館)で開かれた時に展示したものです。実は展覧会が終わってから、この絵はオランダに帰ったのですが、日本であまりにも評判が良かったので、帰国展が開催されました。自分のところで持っている作品の帰国展を開く美術館は世界でも珍しいと思います。逆にいえば、そういう時代に入ってきたということです。

 一点の絵を、いろいろと見えないものを触ることのできる形で展示することによって、見る人にさまざまなヒントを教えてくれるという点で、非常に面白い展示方法だと思います。


●立体物へのプリントアウトで板絵を再現


 われわれは、油絵だけではなく、板絵なども復元しました。これは板にプリントアウトしてありますが、これまで木という硬いものはプリンターに入らないので、板にプリントアウトすることは不可能でした。われわれはその不可能というところにチャンスがあると考えているので、逆にダメだというものをどのように工夫をすれば可能になるのかと検討しました。

 考えたのは、板など全ての立体物にプリントアウトすることです。そこで行ったのが、この板絵のプリントアウトなのです。


●30年前のデータを利用して高句麗の壁画を再現


 それから、ここにあるのは北朝鮮にある、高句麗時代の壁画ですが、実はこれのデータは30年ほど前に故・平山郁夫先生(元東京藝術大学学長)が北朝鮮を訪れた時にいただいたものです。この画ですが、古墳の蓋を開けると気圧が変わり、壁画の上を水が流れてしまうので、今行くと図柄のほとんど水で流されて、なくなってしまっています。

 しかし、その前のデータを利用すれば、こういったものを作ることができる。ですから、北朝鮮と国交が回復した際には、日本がさまざまな形で観光としての手助けができるのではないかと考え、われわれはこのようなものを用意して待っているのです。

 実は韓国で、この高句麗の壁画のシンポジウムがありました。それは、このような壁画の保存というものについて、さまざまな国の参加者がともに研究をするという形のものです。


●不可能を集めていけば、たくさんのチャンスがある


 このように、今まで不可能だったものが可能になるのです。つまり、不可能というところに、逆にチャンスがあるといえます。ですから、われわれは、不可能を集めていけば、まだまだたくさんのチャンスがあると考えています。

 今、世の中はデータ社会です。多数決を取れば、データの一番集積したところにチャンスがあると皆さん、思うでしょうし、そこには人も集まってきます。われわれは、そうではなく、データの少ない、いわば端の方の中にチャンスがあるのではないか、と考えています。つまり、その少ない方のデータをもう一度見直すということが、われわれの研究の原点になっているのです。
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