●政策誘導のできない「少子化・高齢化・グローバリゼーション」
―― 先生がおっしゃった話で印象的だったのは、今の日本の問題は、少子化と高齢化とグローバリゼーションの三つのファクターがなければ、非常に簡単だったというところです。この三つの要素が加わったことによって、問題の解の難しさが違ってきてしまっている。全くその通りだなと思いました。この三つによって、政策誘導は非常に難しくなりましたよね。
曽根 例えば少子化の傾向を変えて、人口増加にすることができますか。これは、確かに政策としてはあります。ですが、子どもを産みたいとか要らないとか、一人でいいとかいうのは個人の選択の話です。それを「二人にしろ」というのは、中国の一人っ子政策と同じことをやりたいのかということですよね。
それから、地方から東京へ出てくる人をせき止める。それは農村戸籍と都市戸籍を分けてしまうことです。そんな中国と同じことができますか、ということです。問題は、確かに人口は多いほうがいい、少子化ではないほうがいいですが、それを具体的な政策にできますかというところです。
グローバル化の問題にしても、グローバル化を止めることは、もう無理ですよね。仮にグローバル化がよくないとしても、日本はこれによって稼いできた部分は大量にあったわけです。つまり、農業や中小企業のみなさんも、一方的にその波をかぶった被害者だと言えるわけではない。グローバル化によって日本は世界に出ていったわけですから、その部分も考えないといけません。
それから、高齢化についても、一番の課題は医療費のかかり方が無制限なままでいいのかというところです。長寿であるのはおめでたくていいことなのですが、無制限の負担には誰しも耐えられない。
●「国の政策だから、結婚しなさい」と言えるか?
曽根 やることがたくさんあって、どれも難しいというのは、個々人の選択に依拠するものだからです。しかし、全体で見ればやはり少子化は問題にせざるを得ないというこの矛盾は、中国的な方法ではおそらく解決できないでしょう。中国でさえ、一人っ子政策は大変だということで、一人っ子同士の結婚であれば次の代は一人っ子でなくていいという具合に政策変更がなされてきているのです。
しかし、だからといって放っておけば人口は少なくなる一方です。しかも、結婚もしない。したとしても、晩婚になっている。そもそもなぜ非婚化や晩婚化が進んできたのかを解き明かして、ボトルネックの部分を解決しない限り、それを政策的に誘導することはできないです。「国の政策だから、結婚しなさい」と言えるかどうかという話で、ここは難しいです。
―― 中国共産党でさえできなくなっている話を、そんな統制型の政策でやろうというのは、今の日本ではあり得ないですよね。
●日本はアジアの先進事例。「課題解決先進国」の道を
曽根 非婚化や晩婚化は、日本だけではなくて、韓国、台湾、シンガポール、香港と、東アジアに共通した問題です。女性が高学歴になり、職業を持つようになったことが、かなり効いているわけですね。職業を持ったり大学へ行ったりすることはいいことですが、それは個々人の選択であるわけです。
逆に言えば、アジアの先進事例として、という考え方もあります。東京というのは、日本全国の先行指標といえます。日本で起きていること、特に高齢化は、他の国が追いかけてきています。少子化は、すでに韓国や香港が先にいっていますが。もしも日本が、政策的に解決する手段として先進事例を作ったとしたら、かつて日本がスウェーデンやデンマークに学んだように、世界中の健康医療や人口統計の専門家が日本にやってきて、日本から政策を学ぶようになるでしょうね。
社会システムデザイナーの横山禎徳さんや東京大学前総長の小宮山宏先生は、日本を「課題先進国」と呼び、私も一歩進めて「課題解決先進国」の必要性を説いていますが、そうなれば、日本が世界に貢献する余地はあると思います。