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損切りをする勇気が、新しい幸運を招き寄せる

人間的魅力とは何か(6)捨てることの大切さ

情報・テキスト
損切りをするのは、とても難しい。特に、まだ「完全な失敗」だと決まってはいないものを捨てる決断をするのは至難の業である。だが、そこで勇気を出して損切りをすればこそ、新しい幸運を招き寄せることができるのである。さらにいえば、昔は「人生はつらいものだ」と強調されていたので、かえって人生を楽しいものだと思うことができた。一方、現代では「人生は素晴らしい」などとばかりいっているから、かえって壁に直面するとすぐに心を病むような事態に陥ってしまうのだ。(全8話中第6話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:09:29
収録日:2019/04/05
追加日:2019/06/28
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≪全文≫

●事業に「完全な失敗」はない。だから難しい


執行 簡単に言えば、日本の政治家も、何でも経済問題にして、ごまかしています。たとえば原発問題一つとってもそうで、原子力発電の問題は「命」の問題です。経済問題ではありません。それを経済問題にするから、わからなくなるのです。原子力や公害の問題は、人間の生存の問題です。それを「経済的に考えれば、原子力のほうが公害が出ないし、生産性もいい」といった違う話になってしまう。要は、全部ごまかしです。

―― そう考えると、わかりやすいですよね。要するに「先行投資した50兆円をどうするか」という話に置き換えているだけです。

執行 それはもう、捨てるしかないのです。会社と一緒です。失敗にこだわる人が、会社を潰すのです。人間というのは失敗の連続です。失敗したら、金は捨てるしかないのが当たり前です。僕は、ずいぶん捨てました。どぶに捨てるのです。それも勇気です。

 うちの会社も一度だけ、やったことが、うまくいかず深みにはまったことがあります。僕はそのときも、小林秀雄の言葉(「知性は勇気のしもべである」)を思い出しました。やはり労力とお金をかけたものは、捨てるのがつらいです。でも僕はきれいさっぱり、ほんのちょっとのケチなこともいわないで全部捨てました。

―― 損切りは大事ですよね。運気換えになりますよね。

執行 僕も経験しましたが、人のことをあれこれ言うのは楽ですが、自分が損害を被ると、そうもいきません。むしろ「損」とわかっていれば、切れるのです。まだ「損する」と決まっていないから問題で、「もしかしたら、立ち直るかもしれない」「もしかしたら、もう一回、うまくいくようになるかもしれない」、そういう欲があります。それを全部ただで捨てるのは、なかなかできないのです。

 でも捨てたあとに、はっきりわかるのは、あのとき捨てなければうちの会社は立ち往生してしまって、今のところより先には行けなかった。失敗しているものを持っているのは、お荷物ですから。持っていればたぶん、なにがしかのお金にはなったかもしれません。でも捨てたら、もっと大きな事業の幸運が入ってくる。

―― しようもないものを持っていると、その分、精神的な時間も取られますからね。それがパッと消えたら、その分の空間ができます。そのようにしてやったほうが早いですよね。

執行 そうです。でもいうのは簡単ですが、やはりみんな自分のときは大変です。

―― やはり三〇代、四〇代、五〇代とやっていれば、必ず失敗は出てきます。

執行 事業をやっていたらね。わかると思いますが、「完全な失敗」はないのです。やはり世の中には何でも、ちょっとはいい目があります、少しは安くなったけれど売れるとか。だから完全に捨てるというのは、なかなかできない。

―― そうでしょうね。それがアダになりますよね。ずるずる行きますから。

執行 だから、ずるずるしている人の気持ちもわかるのです。でも、やはり勇気です。

―― 見切ると、次の舞台が開きますからね。必ずいいことが出てきます。

執行 僕もある事業で失敗したものを捨てたら、次のもっと素晴らしいものが、新たに出てきました。それがまた素晴らしいもので、事業としてはすごくよくなりました。

―― 運気が悪いものを抱えていると、どんどんおかしくなりますから。やはりパサっと切ると、そこにまた違うものが入ってきます。その勘どころは、年代と失敗の回数とともに、だんだんわかってきますよね。私が一番悩んだのは、30代ぐらいのときでした。

執行 最初は多いですからね。

―― 50歳くらいになってくると、だいたいは慣れっこになります。運気の悪いものをつかんだり、運気の悪い人と一緒にやったりしたときは、やはりまとめて根こそぎ整理したほうが早い。

執行 そう。それで新しいものが入ってくるのです。これは順番があって、必ず悪いものを切ってからでないと、いいものは来ないのです。これはみんな人生観として覚えておいたほうがいいです。


●人生はバラ色ではない


執行 いまの日本人に一番いいたいのは、不幸の問題です。先ほど、昔の人はだいたい、自分の収入の頭を打っていたといいましたが、「人生が幸福になれる」などと思っている人は、僕の小学生までの記憶では、あまり会ったことがありません。人生はつらくて、つまらなくて、不幸なものだと、だいたいの人が思っていました。「でも生きていれば、いいことがあるかもしれない」というだけなのです。

 僕が育つ段階で、おやじとおふくろから受けたしつけも、「世の中はとにかく、一つも思いどおりにならない」ということです。人はみんな自分とは違っていて、だから自分とは意見も違う。「でも、そういう意見も、違う人から悪く思われないようにしろ」ということです...
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