●高齢化が進むと、デリバリービジネスが発展する
今、流通業でもう一つ面白いと思っている動きが、コンビニエンスストアの動きです。
ご案内のように今、経済の中でコンビニエンスストアの業績が非常に堅調で日本の小売業を引っ張っていく形になっているわけですが、コンビニエンスストアの戦略を見ていくと、日本の小売業の次の大きな一歩、一手が見えてくるように思うのです。
私がコンビニエンスストアで注目しているのは、もう10年以上前から、セブン&アイ・ホールディングス、当時はまだセブン-イレブンでしたが、ここを中心に展開されているミールサービスというビジネスモデルです。簡単に言えば、注文を取って、お客さんにお惣菜やお弁当を届けるというシステムです。かなり力を入れて展開しています。ではなぜミールサービスがこんなに成長、展開するのかと考えたときに、一つのキーワードになるのがやはり高齢化だろうと思うのです。
東京大学の運動学の先生がどこかでこういう話をしたと聞いたことがあるのですが、なんでも70歳を超えると、人間というものは700メートル以上歩くのを嫌う人が相当多くなるらしいのです。すると、70歳を超えた人は、なかなか700メートル以上歩いて買い物に来てはくれないということになります。今急速に高齢化が進んでいます。あと10年もすれば、団塊の世代が75歳前後になっていくのですから、消費者に占める高齢者の割合はやはり相当に増えてくるわけです。そうなってくると、お店に買い物に来てもらうことがもう非常に難しいことになってきます。そこで、いかにデリバリーを構築していくかが、今多くの小売業にとって、やはり重要な課題になってきているのだろうと思います。
●コンビニだからできる小商圏ビジネスの強み
こういうデリバリーのビジネスモデルというものは、そう簡単に作れるものではありません。したがって、各社それぞれいろいろな形でデリバリーのビジネスモデルを模索しているわけです。例えばスーパーマーケットは、イギリスのTesco(テスコ)が最初に始めたと言われる、いわゆるネットスーパー型のビジネスモデルを展開しようとしています。これは具体的には、店舗にある商品を、個別に近くのお客さんに届けるという仕組みです。また、楽天やAmazon(アマゾン)のような形で、ネットで直接注文を受けてデリバリーするビジネスモデルも急速に拡大しています。それから、百貨店のようなところも、ダイレクトマーケティングの会社と提携して、デリバリーを伴った商品開発を展開しようとしています。
そういう中でコンビニエンスストアが非常に面白いと思うのは、小商圏ビジネスだということなのです。つまり、スーパーであれば、注文したお客さんのところまで、1キロや2キロ離れた遠くまで運ぶことを要求されることが多いわけですが、コンビニエンスストアであれば、店の周囲数100メートル、あるいは非常に半径の短い商圏の中でデリバリーするということが、ある程度納得してもらえます。
そういった小商圏の店を大量に店舗展開して、ロジスティクスを展開するというのは、これはもともとのコンビニエンスストアの強さであったわけですが、それがこれからの高齢化時代のデリバリーにも非常に有効に機能するかもしれないということなのです。
●拡大から深化へ。流通市場の成熟とビジネスモデルの変化
このミールサービスの延長線上にもう一つ重要なポイントがあります。これはコンビニに限らず日本の小売業全般が非常に問われることではあるのですが、日本のコンビニエンスストアは、もともとマスマーケティングを前提とした展開をしてきました。つまり、店をどんどん出店していき、全国に店を広げていくことによって、売り上げも利益を伸ばしてきたわけです。そこでその鍵になるのは、一つ一つの商品をバーコードで管理して、レジ周辺の業務の効率化と商品管理はしながらも、決してそこに顧客情報を深く入れるということはしなかったことです。そのおにぎりを買った人が中年の男性なのか、あるいは若い女性なのかといった程度の情報は入ったとしても、基本的には商品情報を中心にやってきたのです。
これはマスマーケティングの中の拡大モデルとしては当然でした。いかにその情報を使いながら効率的に大量に展開していくかということです。ところが、ある時期、おそらく10年ぐらい前、あるいはもう少し前かもしれませんが、その頃から、こういうビジネスはある意味で転換点を迎えていたのだろうと思うのです。
というのは、もうこれ以上日本国内に店をさらに広げていける可能性はなかなか少ないわけですし、それから、そもそも日本の人口そのものがこれから減少していくという状況にあったからです。
そこで問われてくるの...