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親や子よりも「信念」を重んじる命懸けの生き方

読書と人生(8)合理性こそが愚かしい

概要・テキスト
あまりにキリスト教に血道を上げたためにイギリスとドイツに追い抜かれた国・スペインで、いまや教会の鐘が鳴らなくなった。騒音問題で訴えられたのだという。まさに社会がきれいごとに押し潰されているのである。これを打開するためには、「人生を捨てる」ような人物が必要だろう。そもそもキリスト教は、「すべてを捨てよ」と命じるような宗教であった。そして日本でも、内村鑑三の生き方が、大きくわれわれに訴えかけてくるのである。(全10話中第8話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:12:01
収録日:2019/05/14
追加日:2019/10/04
カテゴリー:
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≪全文≫

●かのスペインで、教会の鐘が鳴らなくなった


―― 「武士道」を考えるとき、山本周五郎、藤沢周平、池波正太郎などを読まない人のほうが圧倒的になったらお終いですよね。

執行 あれらを国民が好きだったときは、みんな武士道が好きだったと思います。描かれている人情は、藤沢周平とか、みな武士道の人情です。

―― 人情といっても武士道ですよね。

執行 そうです、下品な人情ではないのです。

―― だけど周りでそういうものが好きな人は、ほとんどいなくなっています。

執行 話せなくなっているでしょう。

―― たまにしかいないのです。

執行 その意味では、日本人ではなくなっているのです。日本人は悪い意味でもウェットで、悪くも良くもウェットなのです。ウェットというのは、藤沢周平なども好きで、僕も藤沢周平の『蝉しぐれ』など大好きですけれども。『蝉しぐれ』の恋愛は、まさに忍ぶ恋です。『蝉しぐれ』は、映画で見、テレビで見、本で読みと何度も見ていますが、ああいうのが好きなのが、やっぱり日本人なのです。今の日本人はかなりその力が衰えていて、変に合理的になっています。

 合理的に考える人間は、実に薄っぺらいです。軽いしバカで、どうしようもない。合理性こそがバカなのだということがわかっていません。

 これは、いっても仕方ないかもしれませんが、ヨーロッパ人もみんなそうで、日本人だけの話ではありません。

―― その意味でホモサピエンス全体の危機だと。

執行 たとえばスペインは、キリスト教のために全員火あぶりにしたり、宗教裁判所でみんな捕まえて殺したりしていました。そのためにイギリスとドイツに追い抜かれて、後進国になった国です。あの国が、今、キリスト教がまったくないのですから。教会の鐘が騒音問題で訴えられているのです。スペインで今、教会の鐘が鳴らせなくなっている。もうバカです。

 スペインといえば、ついこの間まで宗教裁判所があった国で、僕はその頃のあの国が好きです。なにしろ、そのために合理主義の近代に乗り遅れたのですから。

 スペインの哲学者で、『生の悲劇的感情』で有名なミゲル・デ・ウナムーノがいます。僕が大好きな彼の発言に「スペインが遅れた自動車や飛行機などは、イギリス人やドイツ人につくらせておけばいい。われわれスペイン人は魂の問題を考えているから」というものがあります。「だから...
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