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「イノベーション大国」に劇的に変化した中国の現在地

中国、驚異の情報革命(1)中国DXの躍進

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
中国といえば、昨今「富裕層」や「爆買い」のイメージが定着しているが、一方で中国の情報技術がどれほど急速に革新されてきたか、日本のなかでどれくらい認識があるだろうか。2012年尖閣列島の騒動以来、私たちは中国を直視しなくなってきていたのかもしれない。今のうちに彼の地の驚異の情報革命の実情について、学んでおきたい。(全7話中第1話)
≪全文≫

●中国のめざましい情報経済躍進を日本だけが知らない?


 今日は皆さんに、「中国、驚異の情報革命はいかに実現したか」というテーマでお話をしたいと思います。最近の中国における情報化による経済の質的発展には瞠目すべきものがあると思うのです。

 中国は2010年にGDP(ドルベース)で日本を追い越して、規模では経済大国になりました。しかし、中身はずいぶん遅れているのではないかというのが、私たちの多くが抱いていた先入観だったのではないかと思います。ところが最近、中国は最新の情報技術を取り入れて、社会も経済も急速なデジタル転換を進めており、一部では世界の最先端をいっているといったニュースが飛び込んできています。

 このようなデジタル・トランスフォーメーション(DX)における急激な発展が、そのニュースも実態も、日本ではこれまであまり伝えられていませんでした。したがって、その理解も著しく不足しているという印象を、私たちは禁じ得ないのです。

 どうしてなのか。2012年に尖閣列島をめぐる日中対立が先鋭化しました。日本企業の排撃運動が高まって、焼き打ちなどもありました。この頃から日本のメディアは“嫌中感情”のようなものを掻き立てるようになり、中国のことをあまり正面から見なくなってきた印象があります。一方で中国の賃金コストが非常に高まったため、日本企業の間にも「中国ではなく東南アジアへ行こう」という動きが出てきました。

 これらのために、この重要な時期におけるわれわれの中国理解がかなり空白になっているのではないか。私はこんな印象を持ったものですから、最近懸命に中国について学び、「これはいけない」と感じるに至りました。

 ぜひ皆さんと一緒に、中国のデジタル・トランスフォーメーションがどのように進んで、今どんなところにあるのかというところを勉強したいと思います。


●「データは資源だ」というアリババ創業者


 アリババ(阿里巴巴、Alibaba)のジャック・マー(馬雲)という人は非常に有名ですが、2014年の早い段階で「時代はITからDT(データ・テクノロジー)へと移行する」と言っています。

 彼は早くからそのことに着目してきたようで、「データはガソリンと同様、経済活動の原動力になる」とも述べています。データが蓄積すると、イノベーションが促進されて、新しい産業が出てくるというメカニズムがある、と彼は言うのです。

 例えば、消費者の購買行動、タクシーやモバイクなどの移動行動、金融取引などがモバイルで決済されると、それらのデータは瞬時に蓄積されていく。そのデータ量が大きくなるほど、また個人認証や信用情報など内容が詳細になるほど、データは経済資源として価値が高まるというわけです。

 なぜならば、そうしたビッグデータはAIによるディープラーニングを行い、その分析を通じて、個人行動や社会動態のより精確な把握と予測が可能になるからです。そうした理解と予測は、さまざまなサービスを提供する企業の行動をより効率化させると同時に、新しい産業の創出などのイノベーションにつながる、ということなので、「データは資源だ」というわけです。

 中国のデジタル経済の規模は、2016年前の段階で22.6兆元(日本円で約385兆円)にもなり、GDPの3割に達しています。この急速な発展は、モバイル決済が爆発的に普及したために中国全体がデジタル・トランスフォーメーションの流れに乗ったということのようです。


●イノベーションの発展は、モバイル決済の爆発的普及から


 具体的にいうと、インターネット企業のアリババやテンセント(騰訊控股、Tencent)のようなプラットフォーマー(PF企業)をはじめとする先端テクノロジー企業(テック企業)では、人々の会話、画像、取引、コンテンツなどがデータとして蓄積されます。それがAIによって解析され、それを元に新しいサービスが生まれる。つまり、人と人、人と企業、企業と企業がつながり、人や企業の評価情報などが蓄積されるということです。

 中国のイノベーションの発展は、まずアリババが「アリペイ(支付宝、ALIPAY)」を開発し、テンセントが「ウィチャットペイ(微信支付、WeChat Pay)」を開発したことに始まります。この両者の間で、国を二分するような熾烈な競争が起こりました。それがモバイル決済を爆発的に普及させますが、その背景にはスマホの普及があり、QRコードを皆が使うようになったことが挙げられます。

 中国には儲けたいという人が多いのでしょう。モバイル決済がたちまち中国全土に普及します。その結果として、中国は今、世界の先頭を走るキャシュレス社会となったわけです。金融サービスの後進国だったからこその一大飛躍ともいえます。ちなみに、こういう現象を「リープフロッグ(leap flog)」といいます。後ろのカエルが...
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