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「運命」交響曲と「田園」交響曲が拓いた世界

ピアノでたどる西洋音楽史(6)ベートーヴェンの作曲技法

野本由紀夫
玉川大学芸術学部芸術教育学科 教授
概要・テキスト
ベートーヴェンの交響曲の中で最も有名なのは第5番「運命」だろう。この曲の素晴らしさは「ジャジャジャジャーン」にこだわり抜いたベートーヴェンの作曲術にあるという。そして、その対極の双子と呼ばれる第6番「田園交響曲」がまた別の世界を拓いていく。(全11話中第6話)
※インタビュアー:川上達史(10MTVオピニオン編集長)
時間:08:48
収録日:2019/09/04
追加日:2019/11/29
カテゴリー:
≪全文≫

●「ジャジャジャジャーン」が鳴り続ける第5番


野本 ベートーヴェンが第3番「英雄交響曲」で飛躍的な進歩を遂げたことを前回お話ししました。その次に有名なのは、交響曲中の交響曲と言われるこの曲ですね。

<ピアノ演奏>

 これはもう絶対誰でも知っている曲ですね。日本ではこの曲を「運命交響曲」と言っておりますけれども、本人が名づけたタイトルではございません。

――一般的な、ニックネーム的なものですね。

野本 ニックネームですね。正式には交響曲第5番。これが、すごいんです。何がすごいかというと、作曲の技術が、もう研ぎ澄まされているのがこの曲なんです。これは、リズムが1種類しかないんですね。

<ピアノ演奏>

 「ジャジャジャジャーン」。これしかない。リズムは、これ1種類。これで全部をつくりあげている。

<ピアノ演奏>

 そうすると、「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン」と。

<ピアノ演奏>

 全部「ジャジャジャジャーン」のリズムだけで、この曲を作っちゃえということですね。

――1楽章は本当にこれだけですけど、その後はどういう感じですか。

野本 この後どうなるかと言うと、第2楽章もこういう感じです。

<ピアノ演奏>

 やはり「ジャ・ジャ・ジャ・ジャーン」なんですね。第3楽章の、これもそうです。

<ピアノ演奏>

 「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン」なんですね。これで終わりかと思うと、とんでもない。ベートーヴェンは第4楽章でも、こういう感じです。

<ピアノ演奏>

 「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン」。もっともっと最後に行きますと

<ピアノ演奏>

 「ジャジャジャジャーン、ジャジャジャジャーン」。これが、ずっと鳴っているんですね。


●第5番の画期的作曲術は、「大根1本でフルコース」


野本 つまりベートーヴェンは、この「ジャジャジャジャーン」というモチーフ(音楽用語で、材料や部品にあたります)、これ1個で45分間、全部通して曲をつくれます、ということです。

 そのことの何がすごいか。料理にたとえてみ...
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