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文明の共通点は必ず大事な本があるということ

宗教で読み解く「世界の文明」(2)文明の本質と日本の特徴

橋爪大三郎
社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授
概要・テキスト
文明の本質は、正典の存在にある。これにより、同じように考え行動する集団が形成されていった。それに対して日本では、独自のテキストが根付かなかったので、他国にはない方法で文化がつくられていった。(2019年11月12日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「宗教で読み解く世界」より、全9話中第2話)
時間:06:23
収録日:2019/11/12
追加日:2020/05/03
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≪全文≫

●どの文明も、必ず正典を持っている


 文明がどうやってできたのかをご説明します。それぞれの文明の内容は違うのですが、日本人があまり意識しない、共通点があります。その共通点とは、正典(カノン)、つまり大事な本のことです。どの文明にも必ず大事な本があります。大事な本をみんなで読むということが、文明の本質です。

 ヨーロッパ・キリスト教文明にとって大事な本は聖書です。聖書は神の言葉が書いてあるため、一番権威の高いテキストで、これが正しさの規準になります。ですから、その社会の指導的な知識人はこの本を読み、そのように考え、行動します。もちろん、本が読めない人もいます。知識人はそうした人を指導して、どのように考え行動すればいいかを教えます。そうすると、みんな同じように考え、同じように行動することになります。これにより、民族や文化を超えた、もっと大きなまとまりが出来上がっていくのです。

 イスラムの大事な本はコーランです。コーランも考え方や行動の規準です。ですから、イスラム文明では最も重要で、地位の高い人はコーランを自在に読みこなし、これを現実に適応できる人です。つまり、イスラム法学者です。

 インドでは、ヴェーダ聖典というものがあり、これが彼らの考え方や行動の規準となっています。サンスクリット語で書いてあるのですが、ヴェーダ聖典を自由に読みこなすことができるのは、バラモンという人たちです。インドはカースト制ですが、そのカーストのトップランクの人たちです。彼らが、どうしてトップランクなのかというと、これにアクセスできるからです。

 中国では、漢字で書いてある「四書五経」の「五経」というものがあります。これは孔子が選んだ古いテキストなのですが、政治のやり方が書いてあります。「政治のやり方とは、このような考えなので、このように行動しなさい」ということが書いてあるのです。このテキストにアクセスできる人が、中国では一番偉いとされています。士大夫という人たちです。要するに読書人階級で、字を読むことができ、本を読んで勉強する人です。その人が科挙で試験を受けて、政府職員に採用されると、国を動かしていくことになります。儒教ではこうしたシステムが成り立っています。

 このように、細かい点は違いますが、共通点を取り出すならば、本があり、本を中心に文明ができているという点です。昔...
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