●名人、達人とは明日を見通すことができる人
(前回、アニマ、霊力という人知を超えた大きな力との一体化が大事という話をしましたが、そうしたものに関連して)、だんだんと祭祀、お祭りごとを定期的に開いてくると、そこに祭祀場というものが必要となります。これは世界中というよりも、日本とはちょうど東西をなす位置づけではありますが、アイルランドなどでもそうで、ストーンサークルというものがあるわけです。
これまであまり話したことはありませんが、どこかと言ってしまうとまずいから言いませんが、ある神社に「ここから人間は入っちゃいかん」という霊的な場所がありまして。17、8歳の時、どうしてもそこに入りたいと思った。そこに入っちゃいかんといわれるから、「何があるんだろう」と余計に気になった。そこで、安旅館に帰ってきて食事をしていても、もう、何だろうかという一心で、今日は入ってみようと思った。そこについて、「入るとどうなるんですか」と尋ねると、「命は保証できないんだよ」と言われましたけど、「まあ、いいや」と思って、それで、ある山の上に日本で最古といわれる、非常に重要な神社の本宮があり、そこへ行ってみました。そしたらストーンサークルがあるんです。その時、そういう意味では同じなんだなと思いました。
このストーンサークルというのは天文観測という意味合いもあります。神の力というのは見通す力ということで、神通力というのはそこから来るわけですけど、そういうものがあって、要するに明日が見える、明日が予測できるかどうかということがすごく重要なのです。そういう意味で、神のお使いという人たちはたくさんいますが、そういう人たちは将来が語れるということが非常に重要で、そこには天文観測というものがあるのです。
私は若い頃、ある会社のかなり立派な文化誌があって、月刊誌のような感じで出していたのですが、そこに文章を寄稿しておりました。その時に私は、「日本の名人を探る」ということで、日本で名人といわれる人たちを探っていくという内容の企画を10年間ほどやっておりました。だから、ものすごい数の名人、達人に会った記憶がありますが、「名人、達人というのは何ができる人か」と尋ねると、ほとんどの人が、要するに明日とか明後日を見通すことができる人だというんです。
●天竜川の投網名人に学ぶ名人性~準備をちゃんとしたか~
ですから、そういう意味で、株の名人にしろ、それから流行をパッとつかむ流行の名人にしろ、皆、明日、明後日が見える人なんです。この明日、明後日が見えるというのはどういうことかというと、それがまさに天文観測なんです。
一つ例を申し上げると、天竜川に投網の名人という人がいて、驚くほどの収獲がある。その人は5、6人でやってるんじゃないかというぐらいに鮎の収獲があるというわけです。
どうやっているんだろうかと思い、ぜひ見てみたいということで調べて、その人のご自宅に電話をして、「取材に行きたいんですけど」と言うと、「分かりました」という返事だったので、「いつ、どこに伺ったらよろしいんでしょうか」と聞くと、その人が、「10時に自宅に来てください」という。「分かりました。それじゃあ何月何日の午前の10時にご自宅に伺って、そこから天竜川へ一緒に行くということですよね?」と返すと、「いや、そうじゃないんだ。その日、投網を打つ前の日の夜の10時に来てくれないとダメなんだ」と言うわけです。「ええっ? 夜の10時になんか行ったって何にも見えないんじゃないですか」と言ったら、「いや、見えるんだよ。とりあえずうちへ来てくれよ、夜の10時に」と言うわけです。
そうして、夜の10時伺ったわけです。「ごめんください」と言ったら、ご家族が出てきたので、説明すると。「ああ、聞いてますよ。2階で今、支度をしていますから2階へ上がってください」と言われる。2階へ上がったら、そこには明日の準備と思われる、疑似餌とか、それから重し、特にパーッと餌をまくときの重しとか、そういうものがものすごくきれいに並べられているんです。それをその人がじっと見て、「これはもうちょっとこうしたほうがいいな」と言って準備をしているんです。
これが名人といわれるところで、ここなんだと思ったんです。パーッと投げて、たくさん獲れるなんていうのは素人の考え。つまり、準備をちゃんとしたかということが、名人の名人性だということです。これに関しては、ほとんどの名人がそうでしたね。どうしてそういう準備ができるかというと、明日はこうなるということができるからです。
明日はこういう天候で、例えば朝6時の天候はこうなって、こういう温度にすれば水中は何度ぐらいか。それがどんどん、どんどん温度が上がっていくと、こういう間合いで上がるとか。そういう意味...