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孫子が忠告する「攻撃は最大の防御」の本当の意味

『孫子』を読む:形篇(2)「攻撃は最大の防御」

田口佳史
東洋思想研究家
概要・テキスト
一般に「攻撃は最大の防御なり」といわれているが、これはどういう意味なのか。「形篇」で語られている防御と攻撃についての話は、一般的に考えられていることとは逆から説いているものといえるだろう。先に攻撃をしかけ、その戦闘力でもって相手を屈服させるのではなく、相手がどのような攻撃をしても、絶対に勝てないと分からせる防御力こそが最大なのである。(全4話中第2話)
時間:09:38
収録日:2020/02/25
追加日:2020/12/09
カテゴリー:
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≪全文≫

●軍事レベルの高さを見せつける防御体制


 今から150年以上前の佐久間象山も、まず防御の最大のポイントは敵に侮られることがないことだと考えています。侮られてはいけない、馬鹿にされてはいけないということです。

 馬鹿にされるというのはどのようなことかというと、軍事担当者がちょっと見て、なぜこんなところに場違いの大砲が据えてあるのかとか、ここのところはこちらから軽く通過できるではないかとか、そのような甘く安易な防備に対しては、現実の問題として、これは防御にはなりません。もっと恐ろしいことは、これは軍事のプロが少ないぞ、軍事に長けてないぞと、軍事学の力量が侮られてしまうことで、そこが一番怖いことなのです。

 そういう意味で、気の利いた防御というものがあります。これは全部防御するのではなく、敵が苦労せずに攻めてくるところには、もうすでにきちんと手が打ってあるということです。敵がちょっと苦労するかもしれないと考えて、それでも攻めてきたときを想定して、そこにもきちんと防御がしてあることです。これはどう考えても攻撃できないぞと、敵が諦めるくらいの狡知に富んだ、頭のいい防御体制ができているかどうかということがとても大切です。それをまず、ここで言っているのです。

「昔の善く戦ふ者は、先づ勝つ可からざるを爲して」というように、つまり防御をしっかりして、それで敵が尻尾を出すのを待っている、ミスをするのを待っているというのが、「勝つ可きを待つ」です。したがって「勝つ可からざるは己に在り」であり、それから「勝つ可きは敵に在り」ということです。

 さらに「故に善く戦ふ者は、勝つ可からざるを爲し能<あた>ふも、敵をして勝つ可からしむる能はず」と言っているように、敵が勝つことができないように完璧にすることであり、それは、敵が簡単にこちらに勝つことができないようにすることは大変効果的なことなのです。現実問題として、防御ばかりではなく、国家の軍事的レベルを相手に見せつけるという意味でも、防御体制は非常に重要なのです。

 そして「故に曰く、勝は知る可くして、爲す可からず」ですが、まず勝つというのは知ることができるということ。それは何かというと、相手を勝てないようにすることがで...
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