●中国の不動産バブルは、世界経済を揺るがせるのだろうか
今日は、中国の不動産バブルについて、少し話をしたいと思います。
ご存じのように今、中国の不動産価格は下落を続けています。いよいよ中国のバブルは崩壊するのではないだろうか。そうだとすると、中国経済には大変な大打撃になるリスクがあるし、日本をはじめとする世界にも大きな影響を及ぼすのではないか。そういう議論が随分行われています。
実際に今年の前半、中国で住宅価格が下落し始めたのは、まだ都市部の中でもほんの数えるほどでした。ところが夏以降、特に秋に入ってからは全国で一斉に住宅価格が下落を始めています。不動産価格で見ると、中国は非常に不安な状況であると言わざるを得ないのです。
これまで中国は、不動産バブルをあおってきたというのでしょうか、不動産市場がどんどん価格を上げていくことが、中国経済を成長させるための非常に大きな原動力になってきました。それが逆回転を始めると大変なことになるのではないかという懸念はもっともです。
中国経済は今や非常に大きな影響力を持つ存在ですから、このような国の調子が悪くなることは、世界にとっても大変大きなリスクです。中国の状況について警戒することは、もちろん非常に大切なことだろうと思います。
●冷静に中国経済を見るために―三つの他のケースとの比較
ですから、われわれはこうした中国リスクの存在を忘れてはいけないのですが、時としてこれが過大に言われるケースがあります。少なくとも議論するポイントについて、もう少し注意する必要があるでしょう。
中国で今起きていることは、他の国で起きたことと闇雲に同一視して議論するわけにはいきません。今の中国バブルの崩壊あるいはバブル後の住宅価格の下落については、もう少し冷静に見ていく必要があると思われます。
そこで参考になるのは、過去に不動産価格が大きく下落して、経済が非常に厳しくなった他のケースとの比較です。これには非常に意味があると私は考えています。
今日取り上げるのは、まず不動産バブルが崩壊して20年近く経済が低迷した日本のケース。それから、不動産バブル崩壊後にリーマンショックが起きて、大変苦しんだアメリカのケース。そして、通貨危機の中で不動産価格も暴落し、経済がほとんど危機的状態に陥った1990年代のタイや韓国のケース。この三つのケースと今の中国の不動産価格下落を比べることによって、今の中国で起きていることの意味を考えてみたいと思います。
●日本のバブル崩壊とアメリカのバブル崩壊の違いとは
しかし、中国の話をする前に、日本のバブル崩壊とアメリカのバブル崩壊・リーマンショックとの大きな違いを見ておきましょう。ご存じのように日本では、バブル崩壊に続いて金融危機が起こりました。しかも、これに対する対応が非常に遅れてしまったために、結果的には金融危機をきっかけとして日本経済全体は非常に厳しい状況を迎えました。
当時破綻した山一證券、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、その他もろもろの中小・中堅の金融機関のことを思い出していただければ分かると思います。あるいは、そういうところに大量に融資・借金をして経営破綻ないし経営危機に陥ったダイエーやそごう、ゼネコン等のケースを思い出していただければいいと思います。日本の場合には、明らかに不動産バブルの崩壊が金融危機を引き起こし、大きな問題を起こしたのです。
ところが、リーマンショックを受けたアメリカはどうだったかというと、日本の経験を見ていたこともあったのでしょうが、政府がこれに対して非常に果敢な対応をしたのです。金融危機が起きそうになった時に、政府は大量の資金を金融市場に投じました。これは後になって、政府が一部の大きな金融機関を大事にしすぎて、国民の貴重なお金を投じたのはけしからんという議論にもなります。しかし、結果的に見てアメリカでは、リーマンショックの後に深刻な金融危機が尾を引いて、経済に非常な打撃を与えることにはならなかった。ここが日本とアメリカの違いだろうと思うのです。
●サブプライム問題がアメリカ経済の足を引っ張った理由
では、アメリカの場合はなぜリーマンショック後も、これほど経済の悪い状態がしばらく続いたのでしょうか。最近の研究では、リーマンショック後のアメリカの景気低迷の原因は、どうもリーマンショック自体ではないらしいということで、これにさかのぼる1年前のサブプライム問題の方が、より本質的な問題だったとする説がいろいろと出てきています。
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