●ヒトは本当に食べられるものを何でも食べてきた
また、食事も大切です。(表に)チンパンジーが何を食べているか、そしてヒトが何を食べているかの両方の割合を挙げました。
チンパンジーは基本的に果実をもぎ取って食べています。一方で狩猟採集民だった現在のヒトは、北方のイヌイットとエスキモーなど、ほとんど植物が生えていないようなところに住んでいる人から、赤道直下の熱帯雨林の中に住んでいる人や、砂漠に住んでいる人など、いろいろな人がいるのでばらつきがあります。ただ、どの狩猟採集民も肉が29~79パーセントです。北方の北極圏内に住んでいる人は、ほとんど植物食がないので、根っこや、種子、ナッツ、果実が0という集団はあるのですが、多いところでは、芋などの根茎が37パーセント、種子やナッツなどが58パーセント、果実が40パーセントです。お肉や根菜的なものが特に多いのです。チンパンジーと比べると、ヒトは本当に食べられるものを何でも食べてきたことがよく分かるかと思います。
肉食あるいは脂肪食のために、特にペプシノゲンやアポリポタンパクeが進化しているので、本当に肉と脂肪食をたくさん食べてきたようです。
それから、デンプンに関しても、地面から掘り出した根っこなどを良く食べることから、AMY1遺伝子(アミラーゼ遺伝子)が結構進化しています。
●持続可能な食料生産と食生活を考える
そういう背景があるのですが、今の食事はずいぶんと変わってしまいました。どんな食事がいいかは一概にはいえませんが、いろいろな種類のものをたくさん食べることが大切です。また、野菜、食物繊維、ナッツ、魚介、それから発酵したものは体に良いですね。
とはいえ、あまり気にする必要はないというのが総論だと思います。欧米ではいろいろな運動があって、1日野菜5皿運動などもあるらしいですが、そうやってあまり細かく気にする必要はないようです。たくさんの種類のもの、特にナッツや食物繊維を食べるのがとても良いのです。そして、先ほどもいいましたが、超加工食品はよくありません。
最後に、肉をたくさん食べるといいましたが、ヒトが肉食で進化したのはその通りです。ですが、現代の食肉産業による食肉の生産は、ものすごく環境負荷が高いのです。森林伐採をして牧場にして、そこに水を大量に入れる。そして、家畜がゲップをすることでメタンがたくさん出るなど、環境負荷が非常に高い。そのため、環境問題を考えるときに、現在の肉食に関する畜産産業の形は変えるべきだとよく指摘されます。
毎日こんなに安い肉を食べられなくなる日や、「今日は1年に1度のお祭りだから、少しだけお肉を食べましょう」という日が来るかもしれないといわれるくらい、食肉産業と食肉生産については環境問題から考える必要があるようです。
●何が価値のあることか――現代生活を見直すことの大事さ
さて、まとめると、現代生活は進化的に見て確かに「おかしい」のです。密集して人が住んでいて、環境破壊をしたため、他のいろいろな生物と接触するようになって、感染症が増えました。
また、そもそも野外で過ごして進化したのに、現代は野外で走り回ることがなかなかできなくなりました。特に子どもは野外で走り回って、さまざまな生物に触れて、ときどきは何かに嚙まれたりしながら、学んでいったのですが、そういうことが(ほとんど)なくなってしまいました。そして、よく陽に当たること、自然の中で過ごすことは、誰もが絶対に気持ちいいはずですが、今の生活ではそういうことがすごくやりにくくなっています。
オフィスで過ごすのは、運動不足だし、特定の姿勢を続けるし、陽が当たらないのでよくありません。人類学の提案では、座り机で仕事をするのではなくて、立ち机で立ったまま仕事をして、会議も立ち机ですることが勧められています。そうすると、疲れるので動きたくなり姿勢を変えるし、時間も短くなるということで、立ち机に関しては人類学者がよく推奨します。
自動車は極力避け、階段を使い、自転車に乗ることは、基礎代謝を高くするのにも良いですね。
また、私もそうですが、仕事に没頭するのは楽しいことです。仕事をすればするほど稼ぎが増えることがあって、他の活動がすごく凝縮されて、忘れられたりします。狩猟採集民の食事では、皆が集まってキャンプの火を囲んで、皆で調理して皆で分ける、皆で喋りながら食べるということでしたが、それは楽しいことで、それだけでなく、本当に大事なことです。
仕事机にずっといて、稼ぐのも結構ですが、皆...