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ローマ大火の謎…タキトゥスの写本に残された修正の痕跡

江戸とローマ~図書館と貸本屋(4)江戸の貸本屋・ローマの図書館

本村凌二
東京大学名誉教授/文学博士
概要・テキスト
ローマ大火
出典:Wikimedia Commons
江戸期には貸本屋が庶民の読書の中枢を担ったが、和紙より取扱いが困難な羊皮紙製の写本で残したのはローマの図書館だった。その後、時代は下るがヨーロッパの写本には修正やいたずら書きが散見され、しかも史料として現存するものが少ないため、当時の様子は推測の域を出ないという。(全5話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:59
収録日:2021/06/16
追加日:2022/07/17
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≪全文≫

●江戸の書物は買えば5万円、借りると500円?


―― (写本中心のローマと比べると)日本の場合は、江戸ですから時代がずいぶん下ることもありますが、木版印刷があったり、あとは貸本屋という本を貸す商売がありました。貸本屋の値段を少し調べてみると、だいたい新本が一巻で24文で、現代の貨幣価値に換算すると480円ぐらい、古本の場合は16文、320円ぐらいが相場だったということです(出典は丸太勲氏『江戸の卵は一個四〇〇円!』光文社知恵の森文庫)。

 買うとどのぐらいするかというと、これは時代が少し前になるようですが、井原西鶴の『好色一代男』が銀25匁で、現代の貨幣価値にすると5万円ぐらいかかりました。たぶん本によって幅があるだろうと思うのですが、買うと5万円なのであれば、400円か500円ぐらいで借りて読んでしまおうという発想になってくるのでしょう。

 ですから、黙読しているかどうかは別として、江戸になってくると日本人のほうが文字の文化で情報を楽しむというイメージになってくるわけですね。

本村 日本に和紙があったことも、(本が普及した)理由の一つかもしれませんね。和紙は、本として綴じるのに便利なものでした。ローマ時代には、パピルスはあっても、羊皮紙などを中心に使っていました。そうなると、それなりに費用もかかるし、ひと巻きの中にどのぐらいの量が収まるかということもあります。

 持ち運ぶのも困難ですから、むしろ図書館で必要なところだけ見るような形にならざるを得なかった。日本では、今でも残っていますが、江戸時代頃になると、和紙に書かれたものが出てきて、持ち運びが便利になったこともあるのではないかと思います。


●ヨーロッパの羊皮紙本と修正写本


―― 今でもヨーロッパの図書館では昔の羊皮紙でつくられた本が残っているようですね。あれは主に図書館の大きな書見台で開いて見る、非常に大きくて重いものというイメージがありますが、ローマ時代ではああいう本の形は取らなかったのでしょうか。本はどういう形で置かれていたのですか。

本村 それは時代によって少しずつ違います。羊皮紙の巻物もあれば、ある程度本の形にして見るようになったりもしました。羊皮紙のままよりも、そちらのほうが読みやすいことがだんだん分かってきて、そうなったのではないでしょうか。羊皮紙の巻物は、それなりのところへずっと広げておかないと駄目...
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