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黒船で密航を図った吉田松陰のエスプリは「認識、即実践」

幕末長州~松下村塾と革命の志士たち(06)松陰の思想「知行合一」

山内昌之
東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授
概要・テキスト
世間一般には「尊王攘夷論者」で知られる吉田松陰。しかし、単純な排外主義者ではなく、むしろ非常に柔軟な思考の持ち主であると語る歴史学者・山内昌之氏。果たして松陰の思想はいかなるものだったのか。松陰が目指した国の姿とともに解説する。(シリーズ講話第6話目)
時間:09:15
収録日:2014/12/24
追加日:2015/02/08
≪全文≫

●吉田松陰とその叔父・玉木文之進について


 皆さん、こんにちは。これまで吉田松陰とはどういう人物であるのか、あるいは、松陰を生んだ長州の政治的風土とはどういうものなのか、ひいては、長州藩の財政的基盤は何だったのか、こうしたことについて話してきました。

 そして、前回は松陰の叔父・玉木文之進が松下村塾の創設者であることに触れ、玉木文之進がいかに多くの人々に影響を与えたか、また、当人も事実上の江戸家老という要職に就き、思想と政治との統一をどのようにして図るのかについて考えた人だということも触れました。


●知識を得たら即実践-吉田松陰が生涯を通して信じた「知行合一」という生き方


 松陰は、吉田家に養子として入りましたが、もともと吉田家は兵学の家であり、松陰は山鹿流兵学者としての側面を持っていました。

 彼は、長州藩の許可を得ずあえて脱藩をしてまで全国を回って、多くの知識や教養を持つ人々と触れ合おうとしました。全国各地を歩くことは、当時の日本の海岸線を歩くことでした。彼は、日本がいかに海防、国防に備えがないかを知り、愕然としました。

 こうした学問と政治、あるいは、知識と行動を不即不離で考えようとする彼のエスプリは、いわば「知行合一」と呼ばれる陽明学の考え方に似ています。すなわち、「認識、即実践」、あることを認識する、あるいは、ある知識を得たならば、それを直ちに行動へ移す「知行合一」とも言うべき考え方にすこぶる近いのです。知識を得ても、そのまま何も活用しなければ、それは死んでしまう。知識を生かすべく直ちに行動を起こさなければならない。これが、吉田松陰の生涯を通して考えた、そして、信じた生き方でした。


●松下村塾で徹底された教え-学問は世のため、人のため、国のためにある


 松陰は、「死ぬことや生きることは全く自分の思考範囲の論外に置き、そうしたことを超えて物事の真理を見極めるために前へ前へ進め」と弟子たちに語っています。このように思想家でありながら書斎にこもらないあたりが、まさに吉田松陰の松陰たるゆえんなのです。すごみと言ってもよろしいでしょう。

 松下村塾の講義では、必ず当時の世相のさまざまな問題に結び付けて具体的な議論が展開されたと言います。すなわち、学問とは世の中のため、人のため、国のためにあるということが徹底されていたのです。


●松陰...

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