●アメリカを中心にビジネススクールが発達
「夢のビジネススクール」というお話をします。
ここでいう夢とは、理想的とか理念というよりもっと具体的で、夢のような話をしているとか、空想的なことではないかという、その夢のことです。夢のビジネススクールが世の中に存在しているのかというと、存在していません。ですから、これから賛同する人を募って、そういうスクールをつくることができるかというお話なのです。
世界にはたくさんのビジネススクールがあります。経営大学院と訳されたりするわけですが、プロフェッション(職業)としてのビジネスマンや経営専門家を育てるビジネススクールがアメリカには多いのです。1881年、ペンシルベニア大学に創設されたウォートン・スクール、その後、1898年にシカゴ大学、カリフォルニア大学、あるいは、1908年にハーバード大学に創設されたビジネススクールなどがそれに当たります。日本にもたくさんあるのですが、特に、アメリカを中心に発達したビジネススクールが有名です。そのアメリカのビジネススクールに留学をして、MBAを取るという人もたくさんいるわけです。
●お金の使い方を研究するスクールを提案
今日は、MBAをたくさん出そうというお話をしているわけではありません。あるいは、ビジネススクールで職業倫理をもっと教育すべきだ、ということでもありません。一言で言うと、ビジネススクールは、やはり稼ぐこと、利益を上げることが目的だと思います。つまり、経営にしろ、戦略にしろ、マーケティングにしろ、ファイナンスにしろ、あるいは、政治との関係にしろ、いかに稼ぐか、いかに利益を上げるかということを、数学的に、あるいは、ケースを使って研究をしているのだろうと思います。
私がここで申し上げる夢のビジネススクールは全く逆で、稼いだお金をいかに使うか、つまり、お金の使い方を研究するビジネススクールができないか、ということです。それが学問になるのか、スクールになるのか、分かりません。分かりませんけれども、お金を使うことは、ノウハウも要るし、知恵も要るし、経験も要りますので、難しいことなのです。
よく成金といわれます。お金を持ち慣れていない人が、急にお金が入って、品のないお金の使い方をすることを成金といい、車や飛行機、別荘などを買うという、成金の典型的なパターンがあります。では、成金が美術品を買ったら、その人は品があるのかというと、そうとも言えません。美術品は簡単に買えませんし、目が利かないと無理なのですね。ですから、そういう意味でいうと、どうお金を使うのかということは、簡単なようで、実は簡単ではないのです。
●税と寄付は似ているようで違う
これを申し上げるのは、お金持ちがこれから日本にも増えてくると思うからです。そして、遺産としてかなりの大きな額を残すことになると思います。相続税が片方にありますけれども、相続税ではなく、それを寄付したいという人もいずれ出てくると思うのですね。
税と寄付は、似ているようで、実は違います。税金ですと、多額の相続税を納めたとしても、例えば、研究費として文科省が使うのであれば、それは政府の支出になるわけです。
ところが、もう一方の寄付だと、個別の大学や個別の研究にお金を出すことができますし、個別の学生に奨学金を出すこともできるのです。あるいは、よくアメリカの大学などを見ますと、大学の建物に個人の名前が付いていますが、これは、いってみれば、お墓を建てる代わりに自分の名前の付いた建物を大学に寄付をするということです。それを誰でも受け付けるのかというと、そうでもありません。お金の稼ぎ方が問題で、あまり品の良くない稼ぎ方をした人に対しては、大学の方が拒否をしてバトルになるという話を何度も聞いたことがあります。
●お金の使い方には理念・目標・戦略が重要
そういうことで考えると、お金をどう使うのか、多額の資産を残した人が世の中のために役に立つことを考えたときにどうしたらいいのか、その一つの指針を、財団の歴史が示していると思います。ロックフェラーやフォードであるとか、最近ではビル・ゲイツ財団などがいろいろな研究にお金を出しています。あるいは、われわれが知っているノーベル賞は、何も国の機関が行っていることではありません。ノーベル財団が判断をしているのです。
ただ、お金をどこに流すのかというのは、理念であり、目標であり、価値であり、戦略でもあるのです。まさしくビジネススクールでビジネスや経営を習うことと一緒なのですね。ですから、誰に研究費を渡すのか、どの分野なのかは、基本の戦略によるところが大きいのです。個別の審査は、独立した委員によって選んでもらえばいいということになるわけです。そういう...