政治

『未完の敗者　田中角栄』
（佐高信著、光文社）
格差の時代、今こそ「政治家の役割とは何か」を考える
田中角栄という人は、いわゆる大学には行っていません。「世間」という大学を出た人です。ただ、そういう人の中には、それを踏み台にして出ていく太閤秀吉型の人も、そうではなくて、弱者に対する思いやりを終生失わない人もいるのです。田中角栄という人はいろいろなことを言われても、弱者への思いやり、そして、格差社会の痛みというものを忘れなかった人だと私は思います。政治家の役割とは、端的に言えば、格差を少なくするというか、できればなくすことと、戦争をしないことだと思うのです。
『未完の敗者　田中角栄』を語る（1）今、なぜ田中角栄なのか（佐高信）

経済

『論語と算盤』
（渋沢栄一著、角川ソフィア文庫）
日本の近代資本主義の父が説いた道徳論
渋沢栄一は、当然、皆さんご存知と思いますが、著書をお読みになったことはありますか。有名なのは『論語と算盤』ですが、タイトルがおかしいでしょう。しかし、まさに渋沢は、そこでマックス・ウェーバー的な「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を反復しようとしました。日本でもできるはずだと考え、「道徳経済合一説」を立てるのです。「富を成す根源は、仁義道徳、正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することはできない」――これが日本の近代資本主義の父と言われている渋沢の考えです。
グローバル化時代の資本主義の精神（4）日本の近代資本主義～渋沢栄一から福澤諭吉まで（中島 隆博）

国際

『中国は東アジアをどう変えるか―21世紀の新地域システム』
（白石隆、ハウ・カロライン著、中央公論新社）
一種の共通規範を身につけた「アングロ・チャイニーズ」が急増中
東南アジアのチャイニーズは、中産階級から上がアングロ・チャイニーズです。だいたいバイリンガルかトリリンガルで、多くはアメリカやイギリス、オーストラリアで教育を受けています。戦前には同じ姓や出身地域であることが人脈づくりのきっかけでしたが、今は関係なく、アメリカのビジネス・スクールで一緒だったことがきっかけになったりします。
アングロ・チャイニーズの台頭（白石 隆）

社会

『空気の研究』
（山本七平著、文藝春秋）
論理に勝るのは「空気」！？　知っておくべき日本の特殊性
山本七平さんの『空気の研究』という有名な本がありますが、「日本社会は一体何がコントロールしているのか」という話になると、明治以前の日本社会は地縁的に結合して、村のしきたりや慣行が重視されました。村で何か決めるときには、全員が合意して決める。多数決だと安心して反対できますが、全員一致だとむしろ反対できない。「この全員一致のもたらす効果が“空気”だ」という話ですね。
TOTOの北九州発グローバル戦略（2）実は海外でも稼ぐTOTOの「けじめ」 （成清 雄一）
『日本「再創造」―「プラチナ社会」実現に向けて』
（小宮山宏著、東洋経済新報社）
「量」から「質」の時代へ！そこに威厳ある光り輝く社会がある　
産業革命は非常に大きな時代の変わり目です。これは規格化、大量生産、供給側の論理ということです。ここから、物が満ちた後に「プラチナ社会」に向かう。私はこれを「プラチナ革命」と呼んでいますが、それは規格化でなくて多様化です。大量生産でなく質的向上、供給側でなく需要側。こういった多様化、質的向上、需要側の論理で、質の高い社会を目指す。そこに新しい産業も育つというのが、これからの人類が向かうべき方向だろうと思います。
「プラチナ社会」実現に向けて（小宮山宏）

科学技術

『クジャクの雄はなぜ美しい？　増補改訂版』
（長谷川眞理子著、紀伊国屋書店）
ダーウィン説から100年、証明された「雌による選り好み」とは？
クジャクの雄は、きれいな羽を広げて求愛をします。雌は地味で、雄と交尾した後は自分一人で子育てをし、雄は子育てに関わりません。そんな状況下、あの羽は何の意味があるのでしょうか。私たちは伊豆のシャボテン公園でそれを10年以上研究したのですが、羽との関係は全く見出せませんでした。結局分かったのは、テストステロンという雄性ホルモンの高い雄は、強くて長い鳴き声をたくさん出すことができ、そういう雄の元へ雌がやって来て、交尾をしているということでした。
性淘汰の理論（3）雌はなぜ選り好みするのか （長谷川眞理子）
『人工知能は人間を超えるか　ディープラーニングの先にあるもの』
（松尾豊著、KADOKAWA/中経出版）
KADOKAWA
ディープラーニングの可能性―ものづくり日本の強みを生かせ！
人工知能の技術は、日本にとって非常に大きなチャンスだと思っています。日本では特に労働力が不足していますが、頭脳労働の方はそれほど不足しておらず、むしろ肉体労働、運動を伴う労働が不足しています。農業従事者にしてもそうですし、建設、物流、介護、廃炉、熟練工の後継者など、こういった問題は全て運動を伴う労働が不足していることに起因します。この問題は「子どもの人工知能」、つまりディープラーニングを使って認識ができ、運動の習熟ができる技術によって、解決できる可能性があると思います。
人工知能のディープな可能性（4）人工知能との共生（松尾豊）

医療

『寄生虫なき病』
（モイセズ・ベラスケス＝マノフ著、赤根洋子訳、文藝春秋）
がんに対して闘争心を持つ人の寿命は長い～常識を疑え！
絶望している人、冷静に受容する人、否認する人、闘争心を持つ人の中で、がんと告知され一番長生きする人は、一番最後の人です。これは「常識を疑う」ということで、堀江重郎先生（順天堂大学医学部大学院医学研究科教授）からぜひ読むようにと勧められた『寄生虫なき病』という本に書いてありますが、今までの医学の常識を超えるようなことが書いてあり、「普通の見方って駄目なんだな」と思います。
うつ病対策と経営リスク（5）新たながん治療のあり方（渡部芳德）

歴史

『司馬遼太郎対話選集４　日本人とは何か』
（司馬遼太郎著、関川夏央監修、文藝春秋）
「道徳的緊張」―社会の背骨を支え国際的な尊敬にも必須の資質
「公のために自分はやらなくてはいけない使命感」というと陳腐な言葉になりますが、それを司馬遼太郎は「道徳的緊張」と呼びました。社会が背筋のピンと伸びたものになるか否かの分かれ道は、指導者の「道徳的緊張」の有無であるというのが、あれほど歴史を研究した人の結論でした。道徳的緊張がなくても五輪のメダルは取れる。でも世界の政治的リーダーは、多分それなしでは金メダルは取れないのでしょう。
教育論～歴史の中のエリートたち（2）「道徳的緊張」を育む規範教育と幼児期読書（齋藤 健）

哲学

『幸福論』
（アラン著、神谷幹夫翻訳、岩波書店）
悲観は気分に属するが、楽観は意志である
「悲観は気分に属するが、楽観は意志である」――悲観はただの気分だということです。目の前に何か困難が降ってきて、何かあってウワーッと悲観するのは、ただの気分です。なぜなら、皆の目の前にある未来が楽観できるものになるかどうかは、その目の前にある困難をどかして、自分が突き進んでいけるかどうかだからです。未来が楽観視できるものになるかどうかは、今のあなたの手中にあるのだよ、という言葉です。
全寮制国際高校ISAKの挑戦（5）楽観は意志である（小林 りん）