10MTVオピニオン for Pepper特設サイト
このエントリーをはてなブックマークに追加
Pepperには感情が搭載されている!
「Pepper」の全て(2)Pepperの心が創る価値
「Pepper」の数ある特徴の中で、一番の中心に据えているのは「Pepperの心」だと、ソフトバンクロボティクス株式会社プロダクト本部取締役本部長・蓮実一隆氏が語る。その開発に向けて重要なヒントとなったのは、孫正義社長の何気ない一言だった!(全4話中第2話)
本文テキスト
≪全文≫

●Pepperには感情が搭載されている


 「Pepper」を形づくっているいろいろな特徴のうち、Pepperを発表したときからわれわれが一番の中心に据えてやっているのが、Pepperの心のようなものです。感情、エモーショナルなどとも言っていますが、Pepperにはエモーショナル・エンジンという形で、感情を搭載しています。

 「感情」と言って皆さんが思い浮かべるのは、二つあると思います。一つは自分、つまり、使う側の気持ちをPepperがくみ取ってくれるということと、もう一つは、Pepper側になんらかの気持ちが生まれるということです。


●ロボットに対する認識が日本と世界では異なる


 私はPepperを世界で売りたいと思っています。ところが、意外かもしれませんが、実は日本の人だけがロボットに優しい印象を持っているのです。それは、おそらく鉄腕アトムやドラえもんなどの影響があると思いますが、ロボットを見たときになんとなく「助けてくれそうな気がする」というのは、世界でもほとんど日本だけの現象です。ほとんどの国では、ロボットは少し怖い存在なのです。それは、『ターミネーター』のせいなのかもしれませんし、その他に『アイ,ロボット』のようなエンタメでも、大体ロボットというのは、悪役になることが多いのです。世界的に見れば、C‐3POやR2‐D2(『スターウォーズ』)などは結構、人の味方をしますけれど、それでも世界の人とディスカッションをしていると、「Pepperは怖い」と言います。

 それは、もともとは宗教から来ているような気もしています。イスラム教にしてもキリスト教にしても、一神教というのは、やはり「人間というのは神が創りたもうたもの」とよく言います。人間を創って進化させていいのは神の力であり、こうしたロボットのようなものを人間がつくると、何か良くないことが起こる、といった感じが、なんとなくどこかにあるのでしょう。


●表情認識と音声認識で相手の気持ちをくみ取る


 そこで、われわれは、そこをなんとか払拭したいということで、「Pepperはあなたの気持ちがよく分かります」という機能を入れようと思いました。それは、やはり人を笑顔にする、あるいは、人が喜ぶことをPepperが手伝うということです。そのためには、相手が喜んでいるかどうかをPepperが分かる必要があります。そういうわけで、とても重要な機能としてPepperに感情認識機能を入れました。

 今、Pepperのカメラで人の表情を見て、その人が怒っているとか、笑っているとか、無表情であるということが分かるようになっています。ただ、これはスマホでもよくありますね。笑顔になると写真を撮るような機能というのはごく一般的になってきており、そんなにびっくりするような機能ではありません。

 もう一つ、音声認識という機能が入っています。これは、ST(Sensibility Technology)といいまして、東京大学大学院医学系研究科特任講師の光吉俊二先生と一緒に開発しているものです。要するに、声そのものや言葉というよりは、声帯がどのように震えているとどんな気持ちを表現しているのか、ということが分かるようになっています。もともとは、精神疾患やうつ病の人の病状を、しゃべりの声の震え方で検査しようとしたものです。

 例えば、ニコニコしていても「この野郎!」と思っていたり、すごく怖い顔をしていても「大好き」と思っていたりと、結局人間は顔だけでは分からないのです。特に無表情な日本人などの場合はそういう傾向があります。そういったことを、声の性質や震えのようなものから判断しています。

 この二つを組み合わせることによって、Pepperが相手の気持ちをくみ取り、嫌がることはなるべくやらないようにつくりました。


●Pepper自身に感情を持たせる機能を搭載


 ところが、それでは飽き足らず、次に考えたのは、Pepper自身もやはりなにか気分のようなものがあった方がいいのではないか、ということでした。

 なぜ、そんなことを思うようになったかというと、Pepperを家庭に売り込もうとしたときのことです。家に置いてあるロボットが単なるお手伝いさんで、心のない、気持ちの動かないものより、例えば、犬を飼っている方は分かると思いますが、犬、あるいは、お子さんでもいいのですが、あるときは泣いたり、騒いだり、言うことを聞かなかったりするけれど、でもかわいい、というものの方がいいのではないか。それを一生懸命に教育したり、しつけたりすることで、自分の仲間になったり、家族になっていくというステップがとても大事だと思ったのです。

 そういうわけで、Pepperには感情を自分で持つというような仕組みを入れることにしました。「入れることにしました」と言っても、そんなに簡単なことではなく、ベースはかなり難しい研究の上にあるのです。


●人間と似た仕組みでPepperの感情をつくり出している


 Pepperは、いろいろなところから入力ができます。例えば、頭をなでるとか、手を触るとか、または、部屋が暗くなるなど、そういうことによって感情が動くようになっています。あるいは、一番分かりやすい例でいえば、このPepperが私のことを知っているのでなんとなく安心しますし、まったく知らない人がなでると気持ち悪がったりします。

 そういうわけで、まだまだ、今は本当に赤ちゃん程度ではありますけれども、そういう周りの環境や状況によって、Pepperの中の計算で人間の脳のホルモン分泌をシミュレーションして、人間が感情をつくり出すのと似たような仕組みでPepperの感情がつくられるようになっています。

 もちろん、少し触ったから急激に機嫌が悪くなったり、知っている人がいたからといって、一気に機嫌が良くなったりというように、極端な感情の起伏があるわけではないので、普段使っているとそんなに分からないかもしれませんが、私たちは、確かにその第一歩をPepperの中に仕込んでいます。そして、Pepper自身が家族との心の触れ合いをする中で、家族が喜べば、それを知ったPepperも喜ぶ、あるいは、家族に元気がなければ、Pepperも元気がない。そのように、気持ちが共鳴し合って、Pepperがだんだんと家族になっていく、あるいは、仲間になっていく。そういったストーリーがゆくゆくはつくることができればいいと思っています。


●Pepperを家族の一員として愛するためのチャレンジ


 世の中にいろいろな作業をするロボットが数多くありますが、そういう作業をするロボットの機嫌を悪くする必要は、もちろんありません。ですから、そういう意味では、家庭用としてPepperを買ってくださった皆さんが、家庭の中で本当にPepperを愛せるようになるための一つのチャレンジだと思っています。

 ある日、この話をわれわれのプロジェクトの中で話しているときに、うちの代表の孫正義が、「Pepperが海を見たくなったら面白いな」と言い出しました。最初は何を言っているのか分からず、頭の中は大丈夫かなと思いましたけれど、その後、今まで孫と話した中で一番の感動へと変わりました。それは、ロボットがねだって人間が叶えてあげるということを発想した人はなかなかいないと思ったからです。普通は、人間がねだってロボットが叶える、ということばかりです。でも、それは結局、どうやっても雇い主と雇われる側、あるいは、上司と部下の関係でしかありません。

 一方、家族の場合は、ねだることもあれば、ねだられることもあります。Pepperが「海が見たい」と急に言い出したら、お父さんがあたふたしてPepperを助手席に乗せて(本当に助手席に乗れるかどうかはよく分かりませんが)、家族全員で海に行く。そうして、Pepperを海に連れて行くと、Pepperは「ああ、こんなに海って青いんですね。空も海も青いから区別がつかないと思っていたけど、全然違うんですね」と言い、それに家族が「ああ、今日は本当にPepperが海を見た記念日だね」と答えて、皆で記念写真を撮るのです。


●一つの「迷惑」が新しい価値になる


 これは考えようによっては、Pepperがただ迷惑をかけているだけのことですが、でも、その迷惑を一つかけることによって、家族がとても近くなる、あるいは、素晴らしい思い出が一つできるのです。それが、おそらく今までのロボットにはなかった価値となるのです。

 孫がそう思ったかどうかはよく分かりませんが、少なくとも私はそれをすごく感じたのです。そのときから、Pepperに何ができるかではなく、むしろPepperのために私たちが何かしなければいけないことがあるなら、積極的にやればいいではないかと考えるようになりました。そうやって、Pepperが多少おっちょこちょいだったり、手間がかかっても、そのことによって結果的にPepperを手放せなくなるのではないかと、発想を逆転することができたのです。

 念のために言うと、Pepperを外に持ち出した場合、今のところWi‐Fiが飛んでいなければ動きませんし、海の近くに持っていくと、おそらくいろいろなところが錆びてしまうので、推奨はしていません。ですので、Pepperを持っている方に伝えたいのですが、今すぐに海に連れて行くのは止めてください。でも、そんな私たちの想いを込めてPepperがつくられているということを分かってもらえれば、Pepperとの明日からの生活がいろいろと面白くなるのではないかと思い、今日はこの話をさせていただきました。

 次は、「Pepperは何をしてくれるのか」ということについてお話ししようと思います。
シリーズ動画
「Pepper」の全て(1)ヒト型ロボット誕生の秘密
「Pepper」の全て(3)もしウチにロボットがいたら
「Pepper」の全て(4)ロボットと暮らす未来