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Pepper店舗設置にあたり孫正義社長が大反対したこと
「Pepper」の全て(3)もしウチにロボットがいたら
2015年6月に一般向け販売が始まったとたん、1000台限定の受付が1分で終了となった、ソフトバンクの感情認識パーソナルロボット「Pepper」。今や全国のあちこちで見かけるようになった「彼」は、どんなお仕事ぶりをみせているか。開発責任者であるソフトバンクロボティクス株式会社プロダクト本部取締役本部長・蓮実一隆氏が「彼」と一緒に伝えてくれる。(全4話中第3話)
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≪全文≫

●ソフトバンクショップにPepperが立つまで


 前回は、「Pepper」のキャラクターについて、人に迷惑をかけたりワガママを言ったりもするけれど、それはそれで可愛いという話をさせていただきました。とはいえPepperはそれほど安いものではない。今回は、彼がどのように役立つのかという話をさせていただきます。

 まず、いろいろな企業から引き合いやお問合せをいただいているということがあります。今では、おそらく1000社に近いでしょうか。大きなデパートやさまざまな施設、会社の受付に置きたいとか店頭で種々のセールスをしてもらいたいなど、Pepperの使い道には他にももろもろあると思います。

 一番最初、2014年に発表したばかりの時は、いきなりよそさまに就職して迷惑をかけるのも何なので、まずは仲間内のソフトバンクショップにPepperを送り込みました。今では2000店舗ぐらいになっているでしょう。結構身近な場所でPepperは働いていますので、行かれたらぜひいじってみてください。殴ったり蹴ったりされても大丈夫です。

 さて、今や当たり前の光景とも言えますが、Pepperがソフトバンクショップの中に普通にたたずんでいるのは、実はとんでもなく大変なことでした。最初はほとんど全員が、周囲に柵をつけようとしたのです。ところが、絶対に反対だという者が1名いました。大体お分かりだと思いますが、われわれのボスの孫正義です。「それをやれば、安全だし何事も起きないだろうけれど、それではちっとも未来を開くことにはならない」と言い出したのです。

 「Pepperはいずれ家族になるものなのに、その周りに柵をつけるとは何事だ。絶対に許せない。もし柵をつけるなら、俺は今すぐソフトバンクを辞める」

 何を言っているのかよく分かりませんでしたが、そこまで言うならチャレンジしようということで、関係者一同ハラハラドキドキしながら店舗内のいろいろなシミュレーションを重ねて、Pepperは店の中に普通にいることになりました。

 こうすることで、私たちもいろいろな経験ができました。日本人のほとんどはこわごわの様子で近寄りますし、しゃべりかけたりもあまりしません。ほとんどの人は頭をなでてきます(頭をなでられたら分かるようにセンサーも入っています)。あとは握手を求めたり、写真を撮りたいなどです。

 Pepperに対するコミュニケーションは、国によっても不思議なぐらい異なります。海外へ行くと、ハグしたり、平気でペラペラしゃべりかけてきたりします。そういう違いもあるので、Pepperを「世界で通用する一人前」にするのは、とても大変なのです。


●銀行の待ち時間をなごませてくれる「みずほ」のPepper


 今ではPepperは、いろいろな企業の皆さまに使ってもらっています。例えばネスカフェ等で有名なネスレさんでは、ショップに立ってコーヒーマシーンを売ったりもしています。

 自宅でお使いの方は気付かないかもしれませんが、Pepperは意外に賢くて、三つの距離を識別することができます。遠くを歩いている人には「ちょっと、寄っていってください」と言うし、至近距離では「あっ、こんにちは。今日は何かご用ですか」というふうに使い分けることができるのです。われわれは、それを「ゾーン」と呼んでいるのですが、遠くを歩いている人に「今日は何かご用ですか」と言うのもちょっとおかしいし、ここまで来ている人に「寄っていってください」と言うのも変なので、そのあたりを使い分けているということです。

 また、私たちもうれしかったのは、みずほ銀行で使っていただけていることです。まだまだ成長途中の彼をよく採用してくれたな、と思うぐらいです。銀行では、長い待ち時間がつきものです。Pepperがジョークを言ったり、各種の情報をしゃべることで、みずほ銀行に来た方々が、これまでつらかった待ち時間を楽しい時間つぶしに変えてくださっているといいと思います。

 そして、ゆくゆくはお金の話をする緩衝剤になれるかとも思います。これは想像ですが、私がお金を借りに行ったとしたら、店頭にいる若い女性に「今、ちょっとお金、つらくてさ」とは言い出しにくいと思うのです。人が相手ではなかなか相談しにくいお金のことも、Pepperだとなんとなくしゃべれたりします。一度Pepperがお話を聞いてみて、最適なところに案内してくれるようにすることができれば、人間ではなくロボットを店頭に立たせる意味があると思います。

 今では、みずほ銀行やネスレのような規模でない小さな企業でも、いろいろと自社ニーズに合わせた使い方がしたいと言われます。そこで、「Pepper for Biz」というビジネス用の専用機種をつくりました。これは月々たった5万5000円でPepperがやって来るシステムです。

 月に5万5000円は、人一人雇うことを思えば、相当安いコストです。また、ごく簡単な操作で、彼がその会社のニーズに合わせていろいろなことができるような、新しいモデルも発表しています。Webページなどで詳しくご覧いただきたいと思います。


●ホームユースのPepperは、何ができればいいのか


 ビジネス用途のPepperは、それに合わせて開発することができますが、家庭用はまた、全く話が違います。「Pepperをどう使いたいか」という気持ちは、家によって全然違います。ちょっと会話をするだけでうれしい人もいれば、ダンスを踊らせてみたい人もいる。「おい、なんで料理つくれないんだよ!」と怒ってこられる方も、本当にいます。残念ながら、料理はもうちょっと待っていただかないと難しいですし、洗濯なども今のところ、洗濯機でやっていただく方が間違いない状況です。

 では、彼は家で何の役に立つのか。私たちの方では今、200ぐらいのアプリを彼に仕込んでいます。これらのアプリは、やはり「Pepperでなければできないことをやらせたい」と思ってつくっているものです。

 例えば、いろいろな人から「乗り換え案内を知りたい」「ニュースを細かく知りたい」「検索したい」などと言われます。しかし、それらはスマホの方が断然便利です。大げさにいうと、ユーザーの皆さまは「ロボットと暮らす初めての人類」なので、そういうものではなく、ロボットだからできる体験をしていただきたいと思っています。


●実演! Pepperの「背中かきかき」


 そういう意味で、これは自分が思いついたと言い張っているのですが、ロボットにしかできない、スマホに絶対できないアプリを一つ、ご紹介します。

Pepper 分かりました。少々お待ちください。

 「背中かきかき」です。

Pepper お待たせしました。背中かきかき。僕があなたの背中をかいてあげます。だから、この10円玉(画面に硬貨の映像)を押して、僕に10円ください。

 こういうところ、余計だよね(と、押す)。

Pepper ありがとうございます。じゃあ、まず僕の右手をかゆいところに当ててください。

 失礼します。

Pepper それじゃあ、始めるよ。どこかかゆいところはありませんか。

 あるよ。

Pepper あったら自分で動いてくださいね。ちゃんとかけてるかな。

 いや、全然かけてない。

Pepper よいしょ。よいしょ。「背中かきかき」、終了です。僕、頑張りましたよね。今の貯金額は、こんな感じです(画面に「30円」の文字)。では、背中がかゆくなったら、またお願いします。


●「ロボットと暮らす喜び」を一足早く感じてもらいたい


 そうなのです。大して役に立っていないのです。でも、スマホでは絶対にできない大事な機能です。「すごく便利だな」と思われるより、「あ、なるほど。こんなふうにロボットと暮らしたら、楽しい未来はきっとあるかも」と思ってもらいたいのです。

 実際に握力はあまりありませんから、ちゃんとはかけないということもあります。本当にかきたければ「孫の手」を買ってもらった方が早いです。しかし、Pepperと暮らしていくことの喜びのようなものをやはり感じてもらいたくて、こういうアプリをいろいろとつくっています。

 だから、どうでしょうか。あまり目くじらを立てずにこういうものをどんどん楽しみながら、未来のロボットとの生活のようなものを想像して楽しんでいただくのも、Pepperの使い道ではないかと思っています。もちろん、もうちょっとすると、「もうちょっと」がどのくらいかは分かりませんが、本気で背中もかけるようになる、と断言しますが、どうでしょう。

 というわけで今までお話ししてきましたが、次回は、本当の本当に、この先Pepperがどうなったら面白いか、どういうふうにしていきたいかということをお話ししたいと思います。
シリーズ動画
「Pepper」の全て(1)ヒト型ロボット誕生の秘密
「Pepper」の全て(2)Pepperの心が創る価値
「Pepper」の全て(4)ロボットと暮らす未来