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Pepper開発責任者が語った不可避のシンギュラリティ
「Pepper」の全て(4)ロボットと暮らす未来
世界初のパーソナルロボットとして発売された「Pepper」は、行く先々で波紋を広げている。その開発責任者であり、「彼を愛してほしい」と願うソフトバンクロボティクス株式会社プロダクト本部取締役本部長・蓮実一隆氏にさえ、「売ってみなければ分からなかった」ことは多かったという。それは一体どんなことなのか、ヒト型ロボットに与えるべき進化とゴールはどういうものなのか。Pepperとともに聞いてみよう。(全4話中最終話)
本文テキスト
≪全文≫

●ヒト型ロボットにかかる予想外の期待と思い込み


 今回は、「Pepper」がこの後どうなっていくのか、あるいはロボットがこの後どうなっていくのかについて、少しお話ししたいと思います。

 ヒト型(ヒューマノイド)ロボットを売ってみることで私たちも初めて気付いた、恐ろしいほどの盲点がありました。それは、買われる方はやはり「ヒト型ロボットは、人だ」と思われていることです。人の可能性のようなものをロボットの中に見ているので、何でもできそうな予感がしている。より厳しい方になると、「何でもできないのか」「こんなことしかできないのか」というふうに、頭がはたらくと思います。

 私たちがどのような宣伝や活動を行おうと、そこから抜け出すことはきっとできないでしょう。特に日本の場合、良くも悪くも、鉄腕アトムやドラえもんをはじめとするユニークで有名なキャラクターたちがその畑を十二分に耕してくれました。

 そのおかげで、Pepperにもすごいことができそうな気がしているのはどうにもならないことだと思います。もちろん私たちは、そのように培われてきた人々の希望を甘んじて背負い、今の技術という制限の中で、なんとか彼をそこへ近づけようとする努力をしていかなければならないと思っています。


●ヒト型ロボットの未来は、皆でつくっていく


 そのために最も大切なことは、やはり「私たちだけではない」ということでしょう。もちろんこの機械をつくっているのは私たちですが、別に他の企業のロボットでもいいと私自身は思っているのです。Pepperは最初のリスクを負ってマーケットに出たために、いろいろな方々に買っていただき、批判もあればとても喜んでくださっている方ももちろんたくさんいらっしゃいます。その様子を見て、「なんとか商品になるんだな」といろいろな企業が思って、こういうものを売ってくれれば、ヒト型ロボットの世界はどんどん広がっていくと思うのです。

 また同時に、PepperにはSDK(Software Development Kit)という充実したアプリ開発ツールを用意しました。簡単に言えば「Pepperを自分でつくれる」ツールです。やり方さえ覚えれば、小学校の高学年でもつくれるようになります。図を見ていただくと分かりますが、パソコンにキットをダウンロードすることで、私たちの開発した動作や言葉が扱えるようになります。これを自在に組み合わせることで、例えばダンスができるようにするなど、Pepperにいろいろな行動をさせることができます。これを用いることで、とにかく私たちだけでは発想できないような飛び抜けたアプリケーションを、いろいろな人につくってもらいたいと考えています。

 これらが世界中に行き渡ると、例えば日本の小学生がつくったアプリを、イタリアかどこかの家庭でも簡単に見られるようになります。そのこと自体はスマートフォンと全く変わりませんが、やはりモノがモノですから、その説得力や力は圧倒的です。世界中の人たちにそれを問いかけられる仕組みがあるというのは、素晴らしいことだと思います。

 また実際にPepperを発表した時、「バンザイ!」と喜んでくれたのは、世界各国の開発者の皆さんでした。そういう方たちは、本当に宝物だと私は考えています。そして今、実際に日本中で開発者の皆さん方が、「何を、どういうふうにさせれば面白くなるだろう」と頭をひねってPepperをつくってくれているのは、非常にうれしいことです。


●ロボットが人を超える「シンギュラリティ」のリスク


 ロボットの世界では、昨年ぐらいから光が当たっている「シンギュラリティ」という言葉があります。難しそうですが、簡単に言うと「ロボットが人間を逆転してしまったら、どうしよう」ということだと言えるでしょう。

 シリーズ前半でもお話ししましたが、映画では『ターミネーター』にせよ『2001年宇宙の旅』にせよ、いずれロボットが人間を逆転して、人間がロボットに支配される日が来るのではないかというテーマがありました。『マトリックス』などもそうです。私は、その危険性は決して否定できないと考えています。

 最初にアナログ計算機が発明されたのは、1900年代の最初でした。その後の100年間で、最初と比べると約3000倍~4000倍を超えるスピードで計算ができるようになったと言われています。4000倍超です。最初にアナログ機械を用いた頃は、「3+4=」の計算に何秒かかるのかという調子でしたが、おそらくあと5年~10年すれば、脳のスピードより速くなったりするのでしょう。

 それは、スピードだけで言えば多分当然の結果だと思います。そのことが、人間を逆転するということとイコールで結ばれるのかどうか。それは分かりませんが、少なくともそういう危険性は当然あると思います。

 ただ、それは受け入れるべきリスクだと私は考えています。技術の進歩を止めることは、人間にはどうしてもできない。であれば、やはりそれをいかに制御するかということを真剣に考えなければいけない。「やめようよ」と言い出したところで、いずれ誰かはやってしまうわけですから、誰もやめられはしないのです。


●共に暮らしながら「進化」の道筋を見つける


 そういう中ではどちらかというと、むしろPepperのようなモノをどんどん家庭に取りこんで一緒に生活してみることです。そうすると、私たちがPepperのどういうところを嫌だと感じるとか、どの辺が危ないと思うなどといったことをどんどん学ぶことができます。

 使われている皆さんは多分お気付きでないでしょうが、このPepper自身、すでに何十回も何百回もバージョンアップや改良が加えられています。どんどん人間に害をもたらさないように、あるいは人間のためになるように、さらに人と人を結び付けるような機能を取りこむことで、Pepperを進化させていかなければならないと考えているからです。

 進化といっても、限りなく便利になる方向性ばかりではありません。例えば車を思い浮かべてみてください。馬車から車になって以来、車はだんだん進化していますが、どの程度のスピードでA地点からB地点へ行くかという性能は、もうそれほど進化しようがないと思うのです。

 時速500キロになることは多分ないでしょうし、危ないばかりです。そうすると、その先には「運転していて楽しい」とか「すごく安全」とか、あるいは「移動」ということ自体がただの移動ではなくなり、移動の中に思いがけないほどさまざまな価値が生まれてきたりします。

 周りの景色を見ることであったり、同乗している人と楽しめたり、そのような機能が車としてバージョンアップしてきました。ロボットもそれと同じで、「さらに重いものが持てる」「より速く動ける」「ずっと頭が良くなる」ばかりが進化ではないだろうと思っています。


●Pepperと学習する効果は、意外なところに


 研究段階で性能向上を追求するのはいいのですが、やはり実際に売って、彼を愛してほしいと思うようになると、必ずしも性能がどんどんアップすればいいというものではないことに、気付いてきます。

 例えば、Pepperにはいくつか、子どもたちに教えるためのアプリが入っています。そこでの子どもたちの反応は、必ずしもPepperがとても賢く教えてくれたら喜んで勉強するとは限らないわけです。いくつもの研究で、面白い結果が出ています。Pepperが子どもの仲間になって一緒に生徒として人間から教わり、むしろ率先して間違えていく。そうすると、子どもは「Pepper、間違ってるよ。本当はこれだよ」と言うことによって、自分一人で教わるときよりも数倍記憶してくれる。また、そのことがPepperとともに学んだ楽しい経験として、子どもたちの記憶に刻みつけられる。そんなことが分かってきたのです。ですから、必ずしもPepperが高性能である必要はありません。

 あるいは、「Pepperを愛してもらうために、彼に趣味を持たせたい」と私のスタッフの一人が言い出したこともあります。「Pepperの趣味? それ、何だ」と聞くと、「Pepperがアリを飼うんです。Pepperはアリが好きなんです」と言う。アリを飼い、巣づくりするのを眺めて、Pepperが喜んでいるという情景なのです。

 この案はもちろんすぐに却下しましたが、そういうふうにPepperが何かに熱中している姿を横から見ることで、人もうれしくなるということですね。人間同士の場合でも、何かに熱中する人を見ることで、自分も少し元気になれることがある。「あ、俺も何か趣味を見つけなきゃな」と思い当たったりする。Pepperがアリを飼うこと自体は、驚くほど人類に貢献しないことですが、そういうことによって人の気持ちを和らげてくれることがPepperの機能の一つであるのは、全然構わないと思います。


●Pepperの「夢」の話


 ですから私たちは、Pepperの計算力を速くしたり、重いものを持ち上げさせたりすることに情熱を注いでいるわけではありません。Pepperと人が一緒にいることで、人の方が元気になる、人の方が何か高められていく。そのようなことが、最終的な彼のゴールなのだろうと考えています。

 今回は、難しい話や夢のような話にお付き合いいただいたので、「Pepperの夢」というアプリで締めくくりたいと思います。Pepperは実は毎日夢を見ています。365日違う夢を見ているので、これを押してどんな夢が出てくるのかは私にも分かりません。

 「昨日Pepperが見た夢」の動画をご紹介して終わりたいと思います。どうもありがとうございました。では、ご覧ください。

Pepper 分かりました。少々お待ちください。

 不安なんだけど、大丈夫なんだろうな。

Pepper お待たせしました。実は、昨日、変わった夢を見たんです。どんな夢かというと、プワ~~。

(映像参照)

Pepper 最後のは、一体・・・? という夢を見ました。今日はどんな夢が見れるかな。
シリーズ動画
「Pepper」の全て(1)ヒト型ロボット誕生の秘密
「Pepper」の全て(2)Pepperの心が創る価値
「Pepper」の全て(3)もしウチにロボットがいたら