●データがたくさんあればあるほど、人工知能は賢くなっていく
最近、ビッグデータが話題です。データをたくさん集めて、分析することに価値があるとされています。今日は、ビッグデータが経済学でどのように捉えられているのか、ビッグデータを実際にビジネスに応用していく際には、どのような点に注意が必要かについてお話しします。
ビッグデータが注目されるようになったのは、人工知能の発達が非常に大きいでしょう。人工知能の学習は「機械学習」と呼ばれますが、急速な発展を遂げています。人工知能が機械学習をするためには、たくさんのデータが必要になります。データがたくさんあればあるほど、人工知能は賢くなっていきます。そこで、たくさんのデータを集めることが、より重要になってきたのです。また、経済を分析する上でも、データがたくさんあれば、よりきめ細かい分析が可能になります。こうした2点から、データを大量に集めることの優位性が増してきています。これらが一括して、「ビッグデータ」と呼ばれ、注目されているのです。
将来的には、いわゆるIoT(Internet of Things、モノのインターネット)が発達すれば、ビッグデータの分野もさらに大きく発展を遂げるでしょう。IoTとは、いろいろなものにセンサーが付いており、そのセンサーがさまざまな情報を集め、中央のサーバーにそのデータを貯める、という仕組みです。これを使えば、今までには得られなかった、多様で大量のデータを獲得できる、大きなチャンスになります。こうして、今までは考えられなかったような、きめの細かいデータが集まるだろう、と考えられています。
●データをたくさん持っていれば、競争上有利になる
ビッグデータを使った学習は、競争上のインパクトを持つことになるでしょう。たくさんのデータが学習の大きなエネルギーになるとすれば、よりたくさんのデータを所有する人や企業の方が、学習スピードが速くなります。
企業の行動についていえば、例えば、より安く製品が作れるようになったり、より効率的に生産ができたり、品質を改善することができるようになるでしょう。データをたくさん持っている企業と、少ししか持っていない企業が競争すれば、前者の方が、より効率的に生産でき、競争に勝つことができるということです。したがって、データをたくさん持っている方が、競争上有利になるため、各企業がデータを集めるのに躍起になっているのです。
●製品の供給競争だけでなく、学習効果の実現競争が起きる
もう少し詳しくお話しします。大量のデータが学習の効果を高めていくという行動は、経済学的に「動学的規模の経済性」と呼ばれている現象をもたらします。簡単にいえば、「学習効果」です。現在、たくさんのデータを持っていれば、明日のコストが安くなります。このような、将来にプラスの影響をもたらす効果があるということです。
こうした効果が強く働いた過去の有名な事例が半導体産業です。半導体産業では、たくさん作れば作るほど、生産の仕方を学んでいき、より効率的に安く作ることができるようになりました。急速にたくさん作ると、ものすごくコストが安くなる、という効果が強く働いたのです。このように、学習効果という現象が起きれば、とにかくたくさん作れば、将来が有利になるのです。
こうした中で、単に製品の供給競争だけでなく、学習効果の実現競争が起きることになるでしょう。多少は無理をしても、どんどんつくっていき、性能を良くし、コストを下げることができた企業が、将来有利になります。さらに、他の企業が追随できないようなコスト水準や、そこから生じる価格競争力を実現することができるでしょう。つまり、ライバル企業よりもたくさん作ることが重要だ、というわけです。そうすれば将来、ライバルを追い落とすような、あるいはライバルが生き残れないような、価格競争力を実現することができます。半導体産業の場合、激しい学習効果の実現競争が起き、結果的に、多くの企業が生き残れることができず、少数の企業だけが生き残ることになりました。
こうした現象が、動学的規模の経済性から生じる競争です。「規模の経済性」とは、たくさん作れば作るほど、生産性が安くなるという現象です。「動学的」というのは、時間を通じた規模の経済性を意味します。今日たくさん作ると、明日、もしくは来年、安く作ることができるようになるということです。その結果生じるのが、半導体産業の場合のような競争です。
●先にたくさんデータを集めた企業が、将来勝てるようになる
一般的にいえば、動学的規模の経済性が働いた産業は、半導体産業の他にもありました。しかし半導体産業のように、極端な形で、それが働いた産業はあまりありませんでした。ところが、ビッグデータを人工知能...