若者の就職観とロールモデルの変遷
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
キャリア以外にロールモデルを求める、いまの学生の就職観
若者の就職観とロールモデルの変遷
伊藤元重(東京大学名誉教授)
学生の就職観は、この数十年間でどのように変わってきたか。東京大学で1982年から34年間教鞭を執り、2016年以降は学習院大学国際社会科学部教授を務める伊藤元重氏が、実体験を交えて振り返る。
時間:9分51秒
収録日:2017年11月27日
追加日:2018年1月18日
≪全文≫

●組織と人生を重ねることができた30年前の就職


 大学で40年ほど教えていると、自分の教え子たちがどういう職業選択をするのか、あるいはどういう人生を歩むことになるのかを垣間見る機会が多くなります。中には、明らかに大きな変化を感じることもあります。例えば、今から30年以上前、私が指導するようになって比較的初期の頃の学生たちの就職活動では、どこに就職するかを自分の人生と重ねてみる人が多かったと思います。

 当時、人気のあった企業といえば、例えば日本興業銀行(現みずほ銀行)が給与も高く、仕事にもやりがいがあると言われていました。公務員も給与は安いものの、大蔵省(現財務省)や通産省(現経済産業省)、日本銀行などに入れば、それなりに大きな仕事のベースを自分で築けるのではないかと思われていました。そのように、会社や組織と自分の人生を重ねて就職する人が大半で、その多くが一生その組織や関連会社の中でキャリアを全うするケースが多かったのです。


●スキルアップとキャリア形成を求め始めた学生


 ある時期から学生の見方が非常に変わってきて、就職後10年以内に転職する可能性や、選んだ仕事に満足を得られなくなる可能性を考えるようになりました。「どういうところに就職したいの?」と聞くと、返ってくる答えは「自分を鍛えてくれるところ」だと言います。したがって、自分の能力をスキルアップしてくれそうな組織を選ぶケースが増えていきました。

 今はそれほどでもありませんが、ある時期まで外資系の大手金融機関へ行く学生も増えました。彼らの志望動機として、よくある誤解は「給料が高いからいくのだろう」というものです。給与は高い方がいいに決まっていますが、別にそのために行くわけではありません。彼らが考えていたのは、「外資系の金融機関に数年勤めれば、その間に多少お金は貯められる。そこで次のチャレンジとして、アメリカのビジネススクールに行く」というビジョンです。外資系金融機関で働き、ビジネススクールで学ぶことで、ある種のキャリアができる。そうすると、その先に可能性が広がるだろう。つまり、キャリアを考えて外資系金融機関が選ばれたということです。
 
 公務員志望の学生の場合も、その組織にずっと一生いられればハッピーだけれど、そうではない可能性があるかもしれないと考え始めているようでした。ただ、官公庁の場合は比...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「経営ビジネス」でまず見るべき講義シリーズ
本質から考えるコンプライアンスと内部統制(1)「法令遵守」でリスクは管理できない
「コンプライアンス=法令遵守」ではない…実例が示す本質
國廣正
イノベーションの本質を考える(1)イノベーションの定義
イノベーションの定義はパフォーマンスの次元が変わること
楠木建
キャリア転換で人生を成功させる方法(1)2つの大きな潮流
なぜ40歳でキャリアについて一度考え直す必要があるのか
為末大
東洋の叡智に学ぶ経営の真髄(1)経営とは何かをひと言で?
経営をひと言で?…松下幸之助曰く「2つじゃいけないか」
田口佳史
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
メンタルヘルスの現在地とこれから(1)「心を病む」とはどういうことか
なぜ「心の病」が増えている?メンタルヘルスの実態に迫る
斎藤環

人気の講義ランキングTOP10
編集部ラジオ2025(27)なぜ何回説明しても伝わらない?
なぜ伝わらない?理解の壁の正体を今井むつみ先生に学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(2)量子論と空海密教の本質
脳内の量子的効果――ペンローズ=ハメロフ仮説とは
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(2)アメリカの大転換とトランプの誤解
偉大だったアメリカを全否定…世界が驚いたトランプの言動
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏