狡猾国家イエメンの現状
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
イエメンはエリートが社会の亀裂を利用して経営する国家
狡猾国家イエメンの現状(1)狡猾国家の三つの特徴
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
イエメンの混沌が大変な勢いで続いている。それは、社会的な混沌状態を恒常化しようとする意識が国のエリートたちに働いていることと無縁ではないと歴史学者・山内昌之氏は言う。そこにイエメンが「狡猾国家」と呼ばれるゆえんがある。山内氏が狡猾国家としての三つの特徴を挙げて、イエメンの現状を解説する。(前編)
時間:12分20秒
収録日:2015年6月9日
追加日:2015年7月6日
カテゴリー:
≪全文≫

●イエメンの混沌が大変な勢いで続いている


 皆さん、こんにちは。

 本日は、アラブの内戦、あるいは代理戦争という問題について話を進めていこうと思いますが、今の中東で起きている内戦は、基本的に代理戦争のような側面を持っています。そうした点を踏まえて、日本ではほとんど語られていないイエメンのケースについて考えてみたいと思います。

 イエメンにおいては、政治的、社会的な混沌(カオス)が大変すさまじい勢いで続いています。この問題は、基本的に国の中核を担っているエリートたちがあくまでも権力に執着しようとして、むしろ社会的に混沌が続くことを是とし、恒常化しようとする意識が働いていることと無縁ではありません。

 イエメン国内で対立する諸派の間の内戦、さらにサウジアラビアの空爆、またホーシーというシーア派の一部、すなわちザイド派と呼ばれるシーア派の集団に対するイランの援助など、いずれにおきましても、グローバリゼーションの世界で、イエメンがカオスになっている事実はありながら、私たちや国際世論がそれを無視することの難しさを教えてくれます。


●狡猾国家の体質が染み込んでいるイエメン


 かつて2005年3月に、国連本部で当時の事務総長コフィー・アナン氏は、「破綻国家を無視することは、いつかわれわれを刺し殺すために問題をつくって戻ってくるということだ」と述べたことがありました。こうした発言を踏まえて、イエメンのカオスを無視することは、われわれを刺し殺すために問題をつくって戻ってきた結果、かえって厄介な中東情勢をつくることになるのではないかという危惧を抱かせるわけです。

 これを説明するために、ヨーロッパのある社会学者は、“Cunning State”という言葉を使ったことがあります。この“Cunning State”は、訳がなかなか難しいのですが、狡猾国家、あるいは陰険国家、少し良い意味で老練国家とも訳せるかもしれませんが、いずれにしても収まりがよくありません。内容的にいうと、ある国の市民、あるいは外の国際機構の双方から、その国の統治者や政治家たちが、自分たちに責任が及ばないように、弱さをちゃっかりと、こずるく、まさにCunningで利用する国家、これが“Cunning State”だというのです。

 イエメンは、1994年の内戦が終結して以降、この“Cunning St...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏

人気の講義ランキングTOP10
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(3)未解決のユダヤ問題
「白人vsユダヤ人」という未解決問題とトランプ政権の行方
東秀敏
徳と仏教の人生論(5)陰陽と東洋思想を知ることの意味
『孟子』に学ぶ、リーダーが過酷な境遇に追い込まれる意味
田口佳史
編集部ラジオ2025(26)ソニー流!多角化経営と人材論
ソニー流「人材の活かし方」「多角化経営の秘密」を学ぶ
テンミニッツ・アカデミー編集部
組織心理学~「不満」を生かす(1)不満・相談・予防
職場への不満は6割以上~ポイントは隠蔽、心理的安全性…
山浦一保
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
認知バイアス~その仕組みと可能性(1)認知バイアス入門
誰もが陥る「認知バイアス」…その例とメカニズム
鈴木宏昭
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(2)国家戦略目標の転換
経済発展から「国家の安全」へ…転換された国家戦略目標
垂秀夫