講演『米国史から日本が学ぶべきもの』
~南北戦争は奴隷解放のためではなく利害の対立~
南北戦争は奴隷解放のためではなく利害の対立
その次は、アメリカのもともとの歴史です。アメリカをつくった人たちは、英国の「負け組」です。当時のグローバル主義の大英帝国に対して、アンチを唱えました。
それには二種類います。一つは二流三流の貴族で、冒険家たちです。もう一つは宗教(キリスト教)原理主義で、清教徒の宗教亡命者です。基本的には、この二つです。
二流三流の貴族はジェームズタウンに拠点を置きます。初代大統領のジョージ・ワシントンは、この末裔です。キリスト教原理主義者のほうは、マサチューセッツのプリマスに拠点を置きます。2代目大統領のジョン・アダムスは、ここの末裔です。特殊なのは、人権や自由をいうもののアメリカ合衆国憲法の中には黒人とかインディアンの権利は全く含まれていないことでした。では、誰がこの憲法をつくったのでしょうか。
もう一つの複雑な構造は、南部は最初からフランス型で農業を推進します。トマス・ジェファソンのように駐仏大使の経験があって、フランス型の政体を支援する人たちがいました。一方で、アレクサンダー・ハミルトンのようにイギリス型の連邦政府を強化して、工業化を推進していく人たちがいました。南北戦争でいうと、北部の支持者に当たります。この二つの対立があります。
1800年に当選したジェファソンが3代目大統領になると、少なくともペリーが日本に来るまでの国家像は、フランス型のほうに変わっていきます。
どうやって領土を取っていったのか、ということです。図のグリーンのところから、次にオハイオ州をとり、ルイジアナ州のニューオリンズを取ります。それからテキサスを独立させて、メキシコから併合させ、カルフォルニア州を取ります。
その部分を大統領の名前で分解していったのが上のスライドになります。基本的にこの4人だけ覚えておいてもらえればいいと思います。驚くべきことに、ほとんどがトマス・ジェファソンです。黒人奴隷農場主で、ルイジアナ買収を画策しました。次に、アンドリュー・ジャクソンです。こちらも黒人奴隷農場主です。それから、5代目大統領のジェームズ・モンローです。これも徹底的にインディアンをつぶしていきます。そして、ジェームズ・ポークです。策謀の限りを尽くしてテキサスを独立・合併させ、メキシコを戦争に追い込みました。
なぜ、ペリーが日本に来るまでにアメリカの13州を一気に取れたのでしょうか。ネイティブインディアンは徹底的に虐殺されます。当たり前のように、アフリカからイギリス経由でどんどん黒人奴隷をつれてきました。およそ戦争で勝ったわけでもないのに、人を奴隷として買ってきていた人たちです。これが、人権を唱えている人たちの源流で、荒々しい。
もう一つ、この中で見ておかないといけないのは、英米は本当に仲が良かったのかということです。ワシントン条約で日英同盟を切らされるまで、1800年代を通してアメリカの最大の敵はイギリスでした。1812年~1814年は米英戦争で、独立戦争の時に英軍と一度戦っているので、これは2回目です。
米英共通の友情の歴史として、チャーチルがアメリカのウェストミンスター大学でソ連の鉄のカーテンに対抗するために演説するのですが、ほとんどが作り話です。米英共通の友情話は、実体とはかなりそぐわないのです。しかし、チャーチルのすごみは話をつくってしまうことです。「英米は昔から仲が良かった」という話に変えていきます。これはすごく大事な要諦だと思います。
その次は、南北戦争とは何だったのか、ということです。これは別に奴隷解放のために南北戦争をやったわけではなくて、完全な利害の対立です。南部は、黒人奴隷を酷使して、プランテーション農業で綿花をつくり、イギリスにがんがんと輸出するといった自由貿易を進めていきます。北部のほうは、特に米英戦争以降、イギリスの工業製品が途絶えたので、工業化で飯を食おうということで、国内産業保護のために保護貿易を要求します。対立の基本形は、保護貿易対自由貿易です。
1860年にリンカーンが大統領選に勝利するのですが、南部のほうは、ジェファソン・デイビスという別の大統領を担いで、1861年から65年にかけて南北戦争に発達していく、という形です。
(アメリカの)死者の数を見てもらうとすごく分かりやすい。南北戦争の死者は約62万人です。第二次世界大戦は約29万人です。要するに南北戦争での戦死者数のほうが多いのです。特にアトランタにいたっては、徹底的に根絶やしにされています。
『風とともに去りぬ』という映画がありますが、南北戦争前のアメリカを描いています。南部の白人たち、特に奴隷農業主たちが、いかに貴族社会をつくっていったかが非常によく分かる映画です。アトランタが燃やされるシーンを覚えておいてください。結果的に南北戦争によって、アメリカはその次の時代に入っていきます。