神藏孝之

激変する状況の中で 1. 私とイマジニア 2. 松下幸之助塾主に学んだこと

講演『米国史から日本が学ぶべきもの』
~アメリカの「もう一つの顔」はハートランドにある~

アメリカの「もう一つの顔」はハートランドにある

 ウィルソンはアメリカ本来のDNAに合っていませんでした。第一次世界大戦の途中から参入して、グローバリズムで国際連盟をつくり、大英帝国がやったことと同じようなことをやろうと思いました。しかし、基本的にはイギリスが嫌でイギリスから逃げてきた人たちがつくった国なので、そもそも遺伝子が合いません。これはウィルソン政権の最後のほうになると、人種暴動が起きたり、ウォールストリートで爆破事件が起きたりしました。

 この頃、第一次世界大戦の終わりの1918年から3年にわたって、感染症であるスペイン風邪のパンデミックが起こります。ウィルソンは大統領選に参戦しようと思ったのですが、出られないくらい人気がありませんでした。

 人びとが「もうグローバルなんかもうどうでもいい」「アメリカ第一主義で、孤立主義の国内問題を解決してくれ」となっていたその時にハーディングが出てきます。

 ハーディングの選挙スローガンは、「正常に戻ろう」ということと「アメリカ第一主義」です。それから、ヨーロッパに関わりたくないという、本来のアメリカの「孤立主義」です。

 コックスもハーディングも両方とも無名の候補者で、ハーディングは誰を敵にしたかというと、ウィルソンを徹底的に批判します。それから、選挙のやり方を変えて、遊説ではなく徹底的にラジオを使います。トランプがSNSを使ったのと同じようなことです。この100年前のアンドリュー・ジャクソンもそうでしたが、ポピュリズムを徹底的に考えます。その結果、相手候補者との得票差の比率で見ると、ハーディング以上に勝った大統領はいません。

 その後やったことは、極端な減税と富裕層の優遇、そしてもう移民はなるべく入れないということです。これが排日移民法として現れてきます。とにかく高率関税をかけて、国際連盟など前大統領が提案してできたものに対して加入を拒否します。一方で、ワシントン軍縮会議ではアメリカと日本が詰めながら、中国に出て行くために日英同盟を破棄させます。こうしたことがセットになって、ここでまた次のアメリカの顔が出てきます。

 これは1920年代の「狂騒の20年代」です。ここではある種、世界中の金をアメリカに持ってきてしまうので、株価が猛烈に上がってきます。

 ハリウッドの勃興であるワーナーブラザーズ、MGM、コロムビアもこの時代の産物です。ジャズができ、チャールズ・チャップリンがいて、フォードは24年には累積で1000万台を超えます。それから、当時のニューメディアだったラジオは全盛期を迎えます。

 このあたりのことは、映画『華麗なるギャツビー』を観てもらうと、どんな世界がこの10年間あったのかがよく分かります。政権では、ハーディング、クーリッジ、フーヴァーのオハイオ・ギャングがいます。結果的には、これをやりすぎて大恐慌までいきます。

 今よくいわれているのが、トランプ、そしてバイデン政権になっても、リーマンショックの10倍くらいの財政出動をして、まだテーパリングを止めるつもりがありません。依然として、アメリカが本格的に金利を上げる局面にまだないのです。この時代は、それをほったらかしにしておいて、結局は大恐慌までいってしまいました。『怒りの葡萄』には、アメリカの失業率が25パーセントを超えるということで、いかにそれが高くなったかに関連する話がたくさん出てきますが、ここでフランクリン・ルーズベルトが出てきます。彼が取った政策は、準社会主義政策で、またもう一回別のアメリカに入っていきます。

 アメリカの「もう一つの顔」として、押さえておかないといけないのは、ハートランドです。ここが本来アメリカのある種の中心部なのです。アングロサクソンホワイトではなく、後から来たアイルランド系、スコットランド系、ドイツ系がミズーリ州の一番豊かなところにいて、宗教的にキリスト教の福音派がここに基盤を築いています。では、どこのアメリカ人がそんなに教会に通っているのかというと、この中西部のハートランドの人たちです。

 私たちが普段接しているのは、コロンビアやハーバード、スタンフォードやシリコンバレー、そしてウォール街やワシントンだったりしますが、ここと全く違う人たちがいます。一生のうちに一回も海外に行ったことがないような人たちがいっぱいいます。こういう部分が「もう一つの顔」です。

 さらに気をつけないといけないのは、テキサスとフロリダが州の法人税をゼロにしたので、イーロン・マスクのスペースXやシリコンバレーベンチャーが、税金やアパートが高くなったシリコンバレーからテキサスに向かって、どんどんと拠点を移し始めていることです。これも押さえておいたほうが良いのではないかと思います。

 日米同盟は本当に所与のものでしょうか。日英同盟が1921年のワシントン会議で切られる時まで、日英同盟が切られる、あるいはなくなるとは思っていませんでした。

 よって、日米同盟は、「(アメリカは)唯一の同盟国だ」といっていればずっと維持されるということに対して、本当にそうなのかということを絶えず考えておかないといけない局面に入ってきているのではないでしょうか。

 事例でいうと、ベトナム戦争です。軍事費増大や反戦運動などが出てきて自分のところの具合が悪くなってくると、南ベトナムは結構簡単に捨てられてしまいました。これはリチャード・ニクソンとヘンリー・キッシンジャーの時です。

 それから、ルーホッラー・ホメイニーのイランに対してイラン・イラク戦争が起きたのですが、その時、イランに対抗するために(イラクの)サッダーム・フセインを誰が育てたのかというと、アメリカが育てた以外、何ものでもありません。しかし、フセインも増長してくるとつぶされてしまいました。

 最近では、イスラム国に対して一番戦ったのはキリスト教のクルド人たちですが、この人たちも、イスラム国の制圧がある程度終わって、もう必要ではなくなるとまたポイっと捨てられてしまいます。これがリアリズムなのだという認識は絶対に必要です。冒頭で話したように、もう少し知恵が必要ではないかと思います。

 それから、台湾海峡の問題などもありサプライチェーンで技術と部品は中国に出さないとか、防衛費増強で(アメリカから)イージス艦をたくさん買うとか、本当にそれだけで良いのかということを考えておかなければいけない時代に入ってきていると思います。そのあたりが私の問題意識です。