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インターネットにおける誤報の拡散とその対処の困難さ

フェイクニュースをフェイクヒストリーにしないために

曽根泰教
慶應義塾大学大学院教授(政策・メディア研究科)
情報・テキスト
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏は6月配信のレクチャーで、阿川佐和子氏の結婚相手が曽根氏ではないかという誤報について論じた。しかし、その後もまだそのことを信じている人が多くいるという。そこで今回は、この問題に対して曽根氏が取った対応策とその経過を報告し、誤報の拡散への対処法とその困難さについて語る。
時間:07:44
収録日:2017/07/24
追加日:2017/08/20
≪全文≫

●ネットだけの情報で事実を誤認している人が多い


 今日は、「フェイクニュースをフェイクヒストリーにしないために」というテーマでお話します。以前、誤報の拡散についてお話しました。私が阿川佐和子氏と結婚するのではないか、という誤報が流れたのです。今でも、依然として、「結婚おめでとう」メールが届きます。

 先日、大学のゼミの後輩たちがOB会を開いたのですが、一番盛り上がったのが、阿川氏と私の結婚話だったそうです。その中の一人から、「おめでとう」メールが届きました。10MTVオピニオンの以前の動画を見てもらい、誤解は解けましたが、この方はソニーに勤めていた人で、後輩に阿川尚之慶應義塾大学名誉教授がいたのです。つまり、そのあたりの事情にはかなり通じている方かと思うのですが、「すっかりインターネットでだまされてしまった」とおっしゃるのです。

 これを聞いて、世の中にはネットだけの情報で事実を誤認している人、阿川氏と私の結婚がある、あるいはすでにあったと思っている人が、たくさんいるのではないかと感じました。


●フェイクニュースがフェイクヒストリーになりうる


 また、後世の歴史家が歴史を書くとき、ウェブで確認をする、つまり、裏を取るためにウェブサイトを他にもいろいろと見るとすれば、それは間違いないことだと思うかもしれません。そうなると、それはフェイクニュースがフェイクヒストリーになりうるということで、背筋が寒くなる恐ろしさを感じました。

 現在、例えばネットで「阿川佐和子」と検索すれば、80万件ほど出てきます。さらに「結婚相手」と加えれば約18万件、「曽根」を加えれば、約6万件出てきます。10MTVでこの誤報についてお話した動画は、およそ1万人の方に視聴してもらいました。しかし、ネット検索でヒットする約18万件の誤報が相手ですから、多勢に無勢です。

 それだけではありません。「曽根泰教」で検索すると、阿川佐和子氏の名前がずらっと出てくるのです。これは、私にとって無関係の話です。私の研究のことでも、社会活動のことでもありません。しかし、それがずらっと出てくるというのは、大変な恐怖を感ずることです。


●誤報サイト一件ずつに警告文を送った


 以前に10MTVオピニオンのレクチャーで、誤報の拡散・拡大に対して、ほとんど対処のしようがないと申し上げました。しかし、方法はあります。今日は、その後の経過報告をしたいと思います。

 炎上について研究している人はたくさんいます。炎上した場合には、下手に動かず、放っておくべきだと言われています。しかし、誤報の拡大は、炎上とは構造が違います。誤報がまとめサイトを通じて拡大していく場合、一つ一つのサイトごとに対処するという方法はあり得るということです。ただ、これは非常に手間暇のかかることです。

 私はその後、知り合いの弁護士と相談して、サイト一件ずつに警告文をメールで送りました。これは、内容証明を郵便で送るのと同じようなことですが、大変手間がかかります。誤報の拡散元、情報源にメールを送ろうと思っても、そもそも連絡先がよく分かりません。管理人さえ分からないケースも多数あります。サイトにコメント欄やメッセージ欄が設けられていれば、そこにほぼ内容証明と同じような内容を書き込みました。

 このようにして、20件近くの誤報が消えていきました。しかし、まだ大きいサイトが残っています。サイト上では大きいのですが、運営会社がどこか分からず、消すことができないままになっています。


●誤報の拡大に対処するのは厄介だ


 こうした作業を行って、つくづく感じました。こうした分野にこそ、AIを活用した誤報のお掃除ロボットがあって欲しいものです。「ルンバ」のサイバースペース版は、無いのでしょうか。

 あるいは、ボランティアを集めて、誤報を一件ずつ消していくということも考えられます。原油が海に流出したとき、ボランティアが海岸線で汚染の清掃活動をしています。座礁したタンカーから流れ出した原油を、大海からひしゃくでくみ取るという、大変手間暇のかかる作業です。これに近いことを、サイバースペース上で行うのです。こうしたこともあり得るのですが、ただし、うっかりすると、必要な情報まで消してしまう危険性もあります。

 こうしたことに注意しながら、今、弁護士が一件ずつ情報を見て、文書を工夫しながら、警告文ないし削除依頼を送っているところです。

 経過を報告したのは、厄介な方法ではありますが、誤報の拡散・拡大にはこうして対処することができるということを、お知らせするためです。弁護士にインターネット上、あるいはメールで、削除依頼を出してもらうという方法です。これで何件かは削除されているのですから、対処は不可能ではありません。ただし、誤報全てを消すとい...
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