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55年体制時代、マスコミが野党の代わりを果たしていた

野党とは何か

曽根泰教
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
 
「1955年体制の時代、日本には、野党の役割を担う存在が別にあった」と曽根泰教氏は語る。それはどのようなものか。そして、野党とは一体何なのか。
時間:10:30
収録日:2015/01/22
追加日:2015/02/19
カテゴリー:
≪全文≫

●野党は夢を売り、政府与党を批判する


 「野党とは何か」という話をします。

 日本では今、安倍政権一強多弱で、自民党と公明党で多数の議席を持っており、そのことをある面では心配する人がいます。それは、野党が弱く、強い野党が少ないからです。その点を考えるには、「野党とは何か」という問題を整理しておかなくてはならないと思うのです。

 政権に就いていない政党を議会に抱え込むシステムは、ある意味で、大変ぜいたくなシステムです。それは、いざというときのためにリダンダント(予備、補欠)がシステムの中に組み込まれているということです。そこには、大きく二つの原則が働いています。

 第一の原則は、「民主主義とは何か」にも関係しますが、いかに素晴らしい政府といえども、批判されてしかるべきである、ということです。政府はあらゆる利益をきちんと代表しているのだから、野党は要らないという考えを、かつてソ連や、ユーゴスラビアでさえ唱えていました。中国共産党が、あらゆる地域、民族を代表しているのだから、他に党は要らないという理屈ともつながります。

 ただ、いくら政府が素晴らしくても、失敗を犯すことはしばしばあります。ですから、それをチェックし、批判をする政党は、議席を確保しておかなければならないし、競争は複数でなされなければならない。つまり、良い政府だから批判は要らないのではなく、良い政府でも批判されてしかるべきだ、ということです。

 第二の原則は、政治の世界では、政権を取らないと政策を実行できない、ということです。当たり前ではないか、と多くの人は考えるかもしれませんが、例えば、マーケットで業界1位の会社だけが製品を販売できるということはあり得ません。そのような変な世界は、普通の市場だと考えられないことです。自動車であろうと、家電であろうと、業界何位であっても市場でものを売ることができるのです。

 他方、政治の世界は非対称で、政府与党は政策を実行し、国民にサービスを提供できるけれど、野党は基本的に不可能です。すると、野党が売っているものは何か。アイデア、夢を売っているのです。政策は練っているけれど、国民に届いているわけではないのです。


●妥協するか、政権を目指すか、批判を続けるか


 そうすると、野党は一体何をしたらよいのでしょうか。大きく三つあると思います。

 野党でも、政策実行のために政府と妥協することが一つ目です。地方議会などでしばしば出てくるケースですが、野党が政策アイデアを予算に潜り込ませたり、それを具体的な政策の中に取り入れてもらったりするパターンです。

 二つ目は「イギリス型」といってよいでしょう。次の選挙で勝ち、政策を実行するため、議会では、野党の間、批判に徹する。そして国民に、「もっと良い政策がありますから、次の選挙ではわれわれに入れてください」とひたすら訴える。つまり、次の選挙を目指すパターンです。

 三つ目は、政府を批判することによって存在感を示すことです。政権とは関係のない立ち位置で、批判を続けるパターンです。ただ、確かな野党といわれる政党もありますが、批判する能力はあっても、政権を取り政策を実行する可能性はほとんどありません。日本の場合、「野党らしい野党」とはこのことを指しますが、実際は野党とは呼べません。批判勢力であっても政権に達する可能性がないということは、政治の世界では、ないも同然だからです。野党の迫力は、次に政権を取って代わるだけの力を備えている野党が持つものなのです。

 そこで問題となるのは、存在感を示す野党と次の政権を取って代わる野党では、どこが違うのかということです。


●一強多弱の今、マスコミの野党機能も弱くなっている


 このように、野党は、政府に妥協して政策を実行する野党、政権を取って政策を実行する野党、批判をする野党の三つに分けることができます。先ほど、二つ目を「イギリス型」と言いましたが、一つ目は比例代表制選挙を行っている国と言えるでしょう。そのような国々では、多くの場合、連立を組まないと政権が成り立ちません。多数の党を組み込むことになりますから、政府、政権、内閣そのものが比例代表的です。つまり、野党が与党になっているわけですから、多党間の合意が必要となり、足して2で割り、3で割り、4で割るという政策が多くなります。いわゆる合意型の政治です。

 合意型の政治には、歯切れが悪く、責任の所在がよく分からないという欠点と同時に、複数政党が連立を組んで政権を運営し、政策を実行できるというプラスの面もあるのです。一方、イギリス型には、政権を取った党が責任を持つ代わりに、失敗したら次は野に下るという機能分化があります。このように、政権政党を二つに分けることができます。

 日本では昔、...
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