●新聞各社がいっせいに見出しとした「3分の2」
今回の参議院選挙の結果をどう読み解くかをお話ししましょう。
一体この選挙が何の選挙だったのかについては、選挙前に10MTVでお伝えしていました。これは、各新聞社の翌日の見出しをご覧になっていただくといいと思います。そろいもそろって「改憲勢力3分の2」という見出しが躍っています。新聞の立場はそれぞれ違うわけですが、「3分の2」というところ、正確にいえば「改憲を発議することができるようになった」ことが結論であると、どの新聞社も理解したわけです。
ですから、この選挙の中心はアベノミクスでもなければ一億総活躍の話でもなく、実は憲法だったということになるのです。
技術的な点では、自公は憲法や安保、集団自衛権にはあまり触れず、もっぱら経済争点を前面に出して「選挙に勝つ」という作戦でした。野党側は統一候補を立てるという手法を取りました。最後の接戦で勝った部分はありますので、野党統一という手法自体はあり得る手法であり、一人区で勝つためには統一せざるを得ないことははっきりしました。
しかしながら、「3分の1の議席を野党で確保したい」という目的は実現できなかったわけです。ただ3分の1は、本来争点になるような話ではありません。3分の1を確保すれば結果として憲法改正を阻止できるということです。通常、「○○をさせない」というネガティブな政策は、選挙では勝てない主張になっています。
●「3分の2」からのぞく与党側の立場
それでは、「3分の2」ということの意味をもう一度おさらいしてみたいと思います。厳密にいえば、3分の2を自公で取ったわけではありません。しかし、改憲を主張している会派や無所属の人を含めると、3分の2は確保できている、つまり、その気になれば憲法改正の発議は可能になったということです。
新聞社の人たちに聞くと、「衆参両方で3分の2を取れたことは過去になかった」ということなので、見出しに持ってくるだけの価値はあるということです。3分の2を衆参で取ることで「憲法改正ができる」となると、海外メディアは「それは憲法9条の話ですか」とすぐそちらの方へ結論が向くのですが、実はそうではありません。
なぜなら、公明党にとっての憲法のポジションがあまり明確ではないからです。たしかに「加憲」とはいっていますが、環境権や緊急事態条項の範囲であって、憲法9条まで触れているのかというと、一切触れていないわけです。
「3分の2」という事実は、安倍晋三首相にしてみれば、実は大変なプレッシャーを受ける形なのだろうと思います。今後は「3分の2があるのに憲法改正をやらないのは、どうしてか」というプレッシャーを受け続けるからです。3分の2の議席があるのがいいことかどうかというと、一見すると政治的なオプションが広がったように見えますが、むしろ行動面から見ると今後はかなり苦しいことになるのではないかと思います。また、おおさか維新の会や日本のこころを大切にする党などの人たちがいっている憲法改正は、自民党のいっていることとは相当隔たりがあります。
●休眠中の憲法審査会と憲法改正の自民党草案
実は、この憲法改正について安倍首相がいっていたことは、手続き上はその通りです。つまり、首相が具体的に憲法を発議することはなく、国会が発議をします。発議の仕方はといえば、憲法審査会で議論をします。そこでは、今まではほぼ緊急事態条項に限って議論されてきたのですが、今のところ憲法審査会は休眠状態です。
なぜかというと、憲法学者を3人呼んで立憲主義について議論をしているときに集団的自衛権の問題が出てきて、「違憲だ」とか「立憲主義に戻れ」という話が出てきてしまいました。それがあるために、憲法審査会のメンバーに関して、自民党の中からかなり批判が上がり、一種の休眠状態になったわけです。これを復活することはあると思います。
ただ、そうなった場合、自民党の持っている憲法改正草案は一体何なのか。つまり、内部文書だとしたら外に発表すべきものではないし、たたき台だとすると、それは一体どこのたたき台なのか。つまり、憲法審査会に出すためのたたき台なのか、あるいは「自主憲法」や「憲法改正の党是」を主張する自民党タカ派の人たちに対する一種のガス抜きの安全弁としてのたたき台なのか。このあたりがよく分かりません。
●憲法改正しても乗り越えるべき現実的課題とは何か
基本的にいって、憲法とは統治構造を議論しているものです。統治構造が現実的な政治あるいは人口構造の変化などに適応できないのであれば、それを解決するために改正を行うということは、一つあり得るものだと思います。
その意味で、先の参議院選挙では「合区」が問題になりまし...