●為替高がいいか悪いか、トランプ大統領の見方は
トランプ政権が始動してから、為替の話題がかなり大きく浮上しています。トランプ氏自身から、アメリカのドル高を非常に牽制するような発言が多発することもあり、近い将来、為替に介入する枠組みが出てくるのではないだろうかという議論が出ています。これは、読み解きの難しい部分が多い展開になりそうです。
為替については、いくつか重要なポイントがあります。一つは、ご存じのようにトランプ氏自身はドル高を牽制しているものの、アメリカ財務長官のスティーブン・ムニューチン氏などに典型的に見られるのは「強いドルの方がいい」という発言です。つまりアメリカにとって、アメリカの為替は高いのがいいのか低いのがいいのか、なかなか悩ましい問題なのです。
もちろんトランプ氏自身の頭の中には明快な認識があります。要するに「ドル高になると輸出が苦しくなって輸入が増えるから、アメリカの輸出業界が打撃を受ける。さらに外からの移民も増えるので、国内の雇用が減る」というものです。これが「けしからんから、ドル高は是正しなければいけない。しかも世界的を見ると、中国のようにこれまで為替介入をしてきた国もある」ということで、なかなか難しい話だろうと思います。
●「強いドル」を守りたい財務省の本音は
一方、アメリカの財務省が「強いドルが望ましい」と主張するのはなぜかというと、実はアメリカの財政運営を考えたときに、ドルの需要が結構重要な要因だからです。ご存じのように、アメリカは経常収支でずっと赤字を続けてきています。言い換えれば、海外に対して債務を積んできているわけです。一方、アメリカの政府も財政赤字を続けており、債務水準はかなり高くなっています。
驚くべきことに、直近の1~2年で比較してみると、日本政府の財政赤字をGDPで割った比率と、アメリカやイギリスの政府の赤字をGDPで割った比率では、アメリカやイギリスの方がやや高くなっている傾向が見えます。これ自体はいろいろな背景が関係してくるのですが、トランプ政権下のアメリカが財政拡張方針によって今後さらに赤字を積んでいく可能性は、現実的に大きなものがあるのです。
財政が赤字で債務が積み上がっており、その中で経常収支も赤字を出しているものですから、海外投資家の資金に国債を購入してもらっている面も、かなりあるわけです。そのようなアメリカにとって一番悪い状況は、ドルが安くなることによって国債に売りが出、国債の負担が増えることです。
ですから、トランプ大統領が「ドル高は良くない。ドル安の方向にしよう」と一生懸命発言をする一方で、財務省あたりが「このドル高が好ましい」という話をするのは、アメリカが抱えている悩ましい問題だろうと思われます。
●日本に為替介入の恐ろしさを教えた「プラザ合意」
日本にとっては、為替問題が政治的な流れとなり、管理の方向に進むのが一番好ましくないシナリオです。そこでよく言及されるのは、1985年の「プラザ合意」です。
あの時には何が起きたか。1981年に始まったレーガン政権は、ちょうど今のトランプ政権のような大幅な減税や歳出の増加を行いドル高が起こったため、アメリカは膨大な財政赤字と経常収支赤字を出しました。これが行きすぎたため、「このままでは少々苦しい」と日本やヨーロッパの海外主要国への相談があって、協調介入も含めてドル高是正をすることで、合意をしたわけです。
つまり為替をコントロールすることに合意したのですが、これが日本にとって良かったのか悪かったのか、議論が非常に分かれています。結果的には、日本は1985年に1ドル240~250円という円ドルレートだったのが、それから3年後には1ドル125円までの円高になりました。そのプロセスで、円高不況を懸念した日本国内で金融緩和や財政拡張が行われ、これが一つの原因となってバブルに突っ込み、そのままバブル崩壊を迎えたといわれています。
プラザ合意だけがバブルの原因ではないのですが、日本のマクロ経済から見ると、非常に大きな転換点のきっかけになったということです。ですから、今のこの段階でも、アメリカが圧力をかけて為替管理をすることに関しては、警戒をしなければいけません。
●為替問題への難関は米国内の意思統一と「中国ファクター」
ただし、プラザ合意の時期と今とでは、いくつか違う点があります。まず、プラザ合意が行われた1985年は、レーガン政権が発足して4年後でした。この4年間にアメリカの膨大な貿易赤字や極端なドル高が進んだわけで、そこが今のトランプ政権とはずいぶん違うところです。ですから、非常に早い段階でプラザ合意のような、極端な協調介入によって為替の動きを是正・管理する流れには、なかなかなりにくいでしょう。また、先ほ...