●選挙改革制度の方針は「補強、改修」
このたびの選挙制度改革についてお話しします。私も「衆議院選挙制度に関する調査会」のメンバーの1人として、座長代理でこの改革案に加わりました。本年(2016年)1月14日に議長に答申内容を提出し、その後は議長が引き受けて各党に説明し、1カ月以内に各党の反応を見て、立法化するかどうかというところに来ています。
この選挙制度の今回の改革とはどんなものか。大づかみに説明しますと、例えで言えば、新国立競技場を建て替えるときに、これを改修して使うのか、更地にして新しい競技場をつくるのかの違いです。ですから、新聞のコメントなどを見ていますと、そっくり入れ替えて、更地にして新しいシステムをつくろうというように受け止めている人もいるのですが、われわれはそうではなく、基本的には古い競技場を補強し、改修するという考えなのです。
●シンボルとしての議席削減では理論的根拠がない
では、補強や改修とは何かというと、古い国立競技場はすでに壊して無いわけですけれども、古い選挙制度はまだ使えるということです。そして、競技場のどこが弱いかというと、地震に耐えられないという耐震の点でした。それは、政治制度の方でいえば、最高裁の判決があって、1票の格差問題があり、どうやって各選挙区を平等にし、格差を少なくするかということがメインです。そして、もう一つは何かというと、座席数が多い、議席を減らせ、ということです。これは、民主党の野田佳彦さんと自民党の安倍晋三さんが党首討論で議論して、総選挙をやる前提に、改革として議席を減らす。特に3党合意で消費税増税を導入するのだから、身を切る必要がある。身を切るところは、議席を減らすことだ、と議論していました。
ただ、よく考えてみると、座席数が多いから減らせというのは、どういう理由ですか? ということになります。これは、われわれもずいぶん議論しました。もう理論的な根拠はありません。財政削減は、別な方法がたくさんあります。けれども、身を切るシンボルとして議席を減らし、定数を減らすと言っていい、今の段階で理論的根拠のないとしても、これに対して答申として全く要求に応じないゼロ回答ができるのかという疑問が残りました。もしそうすれば、諮問をした議長、議運(議員運営委員会)とケンカをすることになるわけです。
●小選挙区比例代表並立制に致命的欠陥はない
「あなたたちの言っていることは、100パーセント間違いです。ですから、ゼロ回答です。議席削減はしません」、と言えないことはないのですが、与えられた諮問事項に対して答申をするというのは、普通です。そこで、今回どういう諮問の事項があったのかというと、現行制度を含めた選挙制度の評価、それから2番目は、各党の選挙公約にある衆議院議員定数削減の処理、3番目には、1票の格差を是正する方法、4番目には、現行憲法の下での衆参選挙制度のあり方の問題点という、この四つでした。大きいところは、定数削減問題と1票の格差です。
そういう意味でいうと、「今ある制度の改修」と言ったのは、小選挙区比例代表並立制という制度で何度も選挙をやっているわけですが、この制度に決定的で致命的な欠陥があるかというと、そこはそうでもない。もちろん、批判はいくつかあります。例えば、共産党は絶えず「小選挙区をやめて比例代表にしろ」と言っています。社民党もそれに近いです。ただ、「比例代表にしろ」と、全部白紙にして、更地にして比例代表制をつくり直せという政党は、共産党を除いてはありません。それから、学者の方でも、比例代表論者という人の主張はそれほど強くはないし、世論的にも、比例で復活当選している議員に対して割と厳しい批判があり、重複立候補はよくても惜敗率で復活当選などというのは問題になる。ただ、大枠でいって、われわれ委員会で議論にはなりましが、それは答申に書いてありません。ですから、惜敗率であるとか、政党が比例代表で名簿を作れないことなどは、議論にはなったけれども、答申には書いていない。
●国民との公約という意味での定数削減
ということは、議席を削減することが決まれば、制度は設計できるわけです。この根拠をいろいろ探ってみると、外国の事例、あるいは、日本の過去の議席数などを探って、象徴的に10議席を削減する。そして、3対2という比率で小選挙区と比例代表の議席が構成されている基本がありますから、3対2で6議席と4議席の削減。そういう意味でいうと、この削減についてはそれほど大きな、根本的な大転換が行われたのではなく、象徴的な削減案があり、マスコミでも、例えば1議席、2議席の削減だったら、たった1議席」という見出しが出てくると思うのです。
あるいは、ゼロ回答だったら、全く逆...