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学者を育成するための奨学金が十分でないことが日本の課題

金持ちでないと学者になれないか

曽根泰教
慶應義塾大学大学院教授(政策・メディア研究科)
情報・テキスト
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏が、学者としての視点で日本の奨学金制度、学者育成の問題について論じる。今の日本で、学問、研究を続けていくのは容易なことではない。その厳しい現状を端的に表すのが、「金持ちでないと学者になれないか」という、学生からの質問だった。
時間:10:48
収録日:2016/11/10
追加日:2016/12/08
政治学者で慶應義塾大学大学院教授の曽根泰教氏が、学者としての視点で日本の奨学金制度、学者育成の問題について論じる。今の日本で、学問、研究を続けていくのは容易なことではない。その厳しい現状を端的に表すのが、「金持ちでないと学者になれないか」という、学生からの質問だった。
時間:10:48
収録日:2016/11/10
追加日:2016/12/08
≪全文≫

●「金持ちでないと学者になれないか」という東大生の質問


 今回は非常に珍しいテーマでお話しいたします。

 実は、ある時に学生から「金持ちでないと学者になれないか」と聞かれたことがあるのです。それはどういう時だったかというと、東京大学の駒場キャンパスで、政治学の講義を東大の専任者と私が半期ずつ担当していた時期でした。その日はエリートの話をしたのですが、授業が終わってから学生がやってきたのです。その学生は、具体名は出さない方がいいでしょうが、東大に一番進学者の多い高校出身の学生です。彼が言うには、「うちの同級生にはとにかく人を人と見ない、他人を踏み台にして傍若無人な人間がいます。こういう人間が、国家の官僚や政治家になるのはけしからんことだと思います。なんとかしてください」という話です。私は「なんとかしてください、と言っても、それはエリートの問題ではないですよ。それに私も東大の専任者ではないですし…」と答えたのですが、その時、同時に「私は学者になりたいのですが、わが家は金持ちではないんです。それで、学者になれますか?」と聞かれたのです。

 私は、面白い質問をするなと思いました。その学生は東欧の歴史をやりたいとか言っていましたが、分野として元手が必要なものはあるのです。例えば、美術をやる、音楽をやるといった場合、子どもの頃から良い作品に接するためにはなかなかお金のかかることで、後から追っかけても難しいところはあります。けれども、普通の学問をする、例えば東欧の歴史を研究するようなことであれば、金持ちでなくても学者になれますよ、とその時はアドバイスをしました。


●給付型も貸与型も中途半端な日本の奨学金スタイル


 これはなかなか面白い問題だと思います。どういうことかと言いますと、今、学生が学者になろうとはあまり思わないですし、大学院に進学したいとも思わないという状況です。ましてや、博士課程に進んで研究者になるなどとは、なかなか考えません。しかし、学問というのは、ある意味面白い領域なのです。面白い領域なのですが、日本を考えると欠けているものがあります。

 その欠けているものとは何かというと、奨学金です。奨学金には、昔でいう日本育英会のような、低所得であるとか貧困であるという人に、お金を出して勉学させようというものがありますが、そうではなく、所得はともかくできる人にはどんどん奨学金を出して、優れた学生を学者にしたり、研究者にしたり、あるいは支援してそれこそ国のエリートにしたい、というものもあります。アメリカの奨学金などはどちらかというと、所得で判断するというよりもできる人間には奨学金をもっとつけるというタイプです。

 ここで考えなければいけないのは、奨学金には「給付型」つまりgrant(グラント)と、「貸与型」つまりloan(ローン)があるのですが、日本は貸与型が非常に多いことです。グラントも半端な額しか出ないという状況です。そういう意味でいうと、アメリカは確かに授業料が5万ドル、6万ドルと高く、ルームやボード(賄い)の費用を入れると、日本円で約700万円から800万円ほどかかってしまうというところもあるのですが、それを全額カバーしてくれる奨学金が出ているのです。

 ですから、そういう奨学金が手厚くたくさんあるスタイルでいくか、ヨーロッパ型の大学の授業料はほとんど無料に近い形でいくのか、どちらか2つのうち1つを選択するという方法があるのですが、日本はそれが中途半端なのです。奨学金の額は十分ではなく、しか...
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