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TPPイレブン―アメリカを除く11カ国でのTPPの可能性

アメリカ抜きの「TPPイレブン」、その意味を考える

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏が、日本の通商戦略の方向性について、TPPを中心に解説する。トランプ大統領がTPPを否定している中、「TPPイレブン」という新たな動きが起こっている。日本にとって、そしてアメリカにとっても大きな意味を持つTPPイレブンの核心に伊藤氏が迫る。
時間:12:14
収録日:2017/04/25
追加日:2017/05/25
≪全文≫

●TPPの新たな動きの可能性-TPPイレブン


 トランプ政権が成立して、いわゆる保護主義的発言が続いている中で、日本の通商政策、通商戦略が見直されている、あるいは新しい方向性の模索が始まっています。トランプ政権が成立する前はTPP(Trans-Pacific Partnership、環太平洋戦略的経済連携協定)12カ国で合意ができて、各国の批准のプロセスに入るところだったのですが、ご案内のようにトランプ大統領が否定したためTPPは今、眠っている段階です。

 ここにきて非常に興味深い動きがいくつかあります。その中の1つが、アメリカを除いた11カ国でTPPを締結しようという動きです。以下「TPPイレブン」と呼んでおきますが、やはり大きな鍵になるのはそうした動きをアメリカが容認するかどうかということだろうと思います。もしアメリカが容認するのであれば、このTPPイレブンをやることには非常に意味があります。

 この点については、私は当事者ではないので具体的には分かりませんが、報道を見る限りではどういった形でTPPが進んでいくかということに対して、アメリカが非常に強い抵抗を持っている感じではないようです。したがって、一部の観測では日本はアメリカを除いたTPPイレブンを進めていくという方向に少しずつ歩み始めているようです。


●TPPイレブン締結の意味-流れが変わったときのための受け皿


 TPPイレブンをまとめることの意味は何があるかというと、いくつかあります。まずアメリカとの関係で見ると、TPPを眠らせておく、あるいはつぶしてしまうということからの復活は非常に難しいとした場合、まず11カ国でTPPをまとめて締結しておくということは、将来アメリカがTPPに参加して本来の12カ国のTPPに戻る1つの受け皿になるということが考えられます。これには非常に大きな意味があります。

 ご案内のように、トランプ大統領自身はTPPを否定して大統領選挙を戦ってきたわけですが、今の共和党政権、特に議会のいわゆる主流派の議員たち、主流派のバックグラウンドを持っている人たちとか、あるいは政権の中でもおそらくビジネスに非常に近い人たちからすれば、TPPがどこかの段階でまとめられるということがアメリカの利益にもかなうと考えていると思います。そういう意味では、流れが変わったときのための受け皿としてTPPイレブンをまとめておくのは非常に意味のあることだろうと思います。


●TPPイレブンでアメリカの競争相手が有利な立場に


 さらにいうと、もし本当にアメリカを除いた形でTPPを結ぶ場合、例えばアメリカの農業者が非常に気にしているオーストラリアやニュージーランド、カナダなどとの競争関係でいえば、こういう国々はある意味でアメリカよりも相当有利な関税で日本の市場にアクセスすることになるわけです。すでにオーストラリアと日本の自由貿易協定が動いており、アメリカよりも安い関税でオーストラリアからビーフが日本に入ってくるということは、アメリカの業界から見ると、非常に気になる、あるいは非常に不満な状況だということです。

 これがTPP11カ国でまとまるとさらに、オーストラリアなどの日本に対する関税が下がるので、結果的にはアメリカにとってみてもTPPに入っておくことが自分たちにとって利益になるのだと、強く考える業界が増えてくるだろうと思います。ですから、そういう意味もあってTPPイレブンを進めていくということが、アメリカとの関係において非常に意味があるのではないかと思います。


●12カ国での締結とTPPイレブンの比較


 さらにアメリカ以外の日本を含む11カ国の間でどうかというと、11カ国でのTPP締結は、日本にとって非常に経済的利益が大きいだろうと思います。

 TPPを締結するプロセスで、実際に(アメリカと)日本を含む12カ国がTPPに入ったときに、日本にどれぐらいのメリットがあるだろうかということを、いろいろな専門家がシミュレーションモデルを作って計算しました。比較的よく引用される、ある意味で最もしっかりした指標に基づいたモデルで見ると、TPPが発効してから10年から12年くらいの時点で、TPPを結ばない場合と比べて結んだ場合はGDP(国内総生産)に対して1パーセント以上の利益があり、それはおよそ5兆円ということになります。これは毎年利益が積み上がってくることになりますから、10年で加算すると50兆円という大変に大きな金額になるのです。

 このメッセージは何かというと、TPPを結んでも、2年や3年で目に見えるような成果が出るわけではないけれども、0.1パーセントとか0.015パーセントといった非常にわずかな増加が起こって、それがずっと積み上がっていくと10年、15年たったあたりでは、TPPを結ばない場合に比べて非常に大きな利益が出る、ということになるのです。

 同じ指標を使ってアメリカを外した11カ国でやってみたらど...
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