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トランプ政権の通商政策が日本に及ぼす影響は?

トランプ政権の通商政策を読む

伊藤元重
東京大学名誉教授
概要・テキスト
「貿易戦争はいいことで、勝つのも簡単」。これはトランプ大統領が2018年3月に発信して、話題になったツイートである。同盟国である日本は狙い撃ちにされているのか、1990年代の貿易摩擦が再来するのか。市場は戦々恐々とするが、冷静な現実的対処について、東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏が、世界を見据えて案内していく。
≪全文≫

●トランプ政権の強圧通商の陰で泣く「マルチ」の世界


 トランプ政権の通商政策が非常に話題を集めていますが、いくつかのポイントに分けてお話ししましょう。

 ドナルド・トランプ氏が最も強く志向しているのは、まさに彼の言う「ディール(取引)」で、相手とテーマを明確にして、先方から譲歩を引き出すことです。通商政策の世界では、これがバイラテラル(2国間)の議論として行われるわけです。

 通商政策が「バイ」と「マルチ」、さらにその中間の仕組みから構成されるのはご存じの通りです。WTO(世界貿易機関)のように多くの国が参加する機関で、世界的な貿易の自由化や通商について多国間が交渉をするのが「マルチ」。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)、あるいは日本とEUとの経済連携(EPA)など、多くの国が参加して貿易を自由化していく取り決めも、マルチに近い存在です。

 それに対する「バイ」は、例えばアメリカから見る特定の国(日本、中国、ヨーロッパなど)を対象に相手の譲歩を求めていく形です。

 どちらも大事なのですが、トランプ政権ではバイによって相手の譲歩を引き起こそうとする非常に強い勢いが特徴的ですから、結果的にマルチの世界が失速し始めています。

 WTOはひどい状態で、ほとんど機能低下を引き起こしているのだろうと思います。何かを議論しようとしても、アメリカがこういう動きをしている以上、まったく議論できない状況が続いています。ご存じのように、TPPもアメリカが撤退することによって一時は破綻の危機だったのですが、アメリカを抜いた形でなんとか日本がまとめあげました。

 そういう中で、アメリカは韓国やメキシコ、カナダとも交渉をし直して、自分の有利な方向へシフトしています。ですから、トランプ政権の今やっている貿易政策の「相手に譲歩を求める」こと自体よりも、それによってマルチやWTO、多国間自由貿易協定の流れが崩れ、弱まっていくことが、一番懸念すべきことかもしれません。


●米中「関税戦争」が引き起こした意外な成果


 その上で、アメリカが要求していることを見ると、なかなか悩ましいものです。ただ、アメリカは別に相手に報復をしたいから通商政策を仕掛けてくるのではなく、相手の市場に参入したいから入ってくるのです。今、起きていることの中には、アメリカの圧力が結果的には市場を...
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