10MTVオピニオン|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録
10MTVオピニオンは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
このエントリーをはてなブックマークに追加

フィンテックは金融機関をどのように変えるか

破壊のメカニズム「フィンテック」と金融ビジネスの行方

伊藤元重
東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授
情報・テキスト
フィンテックは今の銀行や大手金融機関を破壊するメカニズムとして見ることができるかもしれない。そして10年後、いや5年後には金融に大変化が訪れているだろう、と語る東京大学名誉教授で学習院大学国際社会科学部教授の伊藤元重氏。それはなぜか。注目のキーワードを挙げながら、その理由と背景について解説する。
時間:16:25
収録日:2017/04/25
追加日:2017/06/01
≪全文≫

●ITの進展で全ての枠組みが変わる時代の金融


 AIやIoT、クラウドコンピューティングなど、さまざまな新しい情報技術が次々に出現し、この変化で影響を受けないところはないといわれています。

 医療はビッグデータからいろいろな資料を使えるようになるでしょうし、e-コマース(電子商取引)は最も身近に非常な勢いで変化しています。労働市場もクラウドソーシングで大きく変わる可能性を持っていますし、教育からエンターテインメントまで、いろいろなものが変わりつつあります。

 その中で、金融の変化も注目されています。IT技術が進むことにより、テクノロジーとファイナンス(金融)が合体する中で「フィンテック」というものが出てきたからです。

 確かにそういうことはいろいろと起こっています。例えば、日本に観光に来る中国人の大半が「アリペイ」を使い始めています。最近の中国人観光客に聞くと、「両替もキャッシュも要らない。アリペイさえあれば何でもできる」のだそうです。私は先日インドへ行きましたが、インドもやはりそういう流れになっています。今の政権が高額紙幣の廃止というダイナミックな政策を行ったため、多くの人がアリペイに似たシステムを用いていて、携帯電話やスマートフォンで払うような仕組みになっています。

 こういう技術がさらに進化してくると、ブロックチェーン(一度記録されると改ざんできない記録技術のこと)を使うようになり、金融システムとは別のところで、中央銀行の指示とも独立して、いろいろな決済や送金ができるようになってきます。金融はもともと情報化が非常に進んでいる業界ですから、大きく変わることは間違いないのですが、どちらの方向に変わっていくのかが非常に読みにくい状況にあります。今日はそれを、やや異なる視点からお話ししたいと思います。


●フィンテックを表す二つのコメント


 フィンテックに関連して、よくいろいろな本などに引用されるコメントが二つあります。

 一つは、1990年代中頃にビル・ゲイツ氏が言ったことで、「たぶん銀行は要らなくなるだろう。残るのは銀行機能だ」というものです。この言葉を推察すると、「銀行が行っている機能をITが代替するかもしれない。その時、今の銀行組織は必要なくなるかもしれない」というような意味で、今もよく引用されています。

 もう一つは、JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモン会長の言葉で、こちらの方がよく引用されますが、「近い将来、自分たちにとって最大のライバルは、グーグルやフェイスブックになる」というものです。これなども、業界がガラッと変わるということだろうと思います。

 これらの言葉の背後には、IT技術の持つある種の破壊力のようなものがあると思います。いろいろな分野でITが産業社会を変えていく流れを見たときに、フィンテックは基本的に今の銀行や大手金融機関を破壊するメカニズムとして見ることができるかもしれません。それを二つのキーワードでコメントしたいと思うのです。


●巨大な金融機関に向かうアンバンドリングの破壊力


 一つは「アンバンドリング」という現象です。アンバンドリングとは何かというと、「バンドル(束)をばらけさせる」という意味です。

 大銀行は、非常に多くの支店を持つ巨大な情報システムになっています。それが多くの優秀な社員、従業員を抱えていて、いろいろな機能を果たすわけです。預金、貸出、投資、決済、送金、コンサルティングなど、他にもいろいろな機能を持っているでしょう。だから、銀行とは、そうしたいろいろな機能をバンドルで持つもので、そのことが金融機関としての大きな存在意義になっています。それを支えるために膨大な人材がいるわけです。

 一方、フィンテックといわれるテクノロジーの特徴を見てみると、銀行機能の中のある種の部分だけを取り出して、はるかに低コスト・高効率でビジネスができます。例えば、コマースの送金を簡便にしたいというのであれば、スマホで行えます。あるいは運用をしたいということであれば、たくさんのアナリストやその運用担当者を抱えていなくても、AIの企業でできてしまうかもしれません。

 証券取引ではすでに起こっていることですが、取引時にいわゆるブローカーが金融機関の中にいなくても、ネット証券の中でいわゆるネット取引というものはできます。あるいは資産運用でも、実際にアナリストが分析していろいろな株を買うアクティブ運用よりも、ETF(Exchange Traded Funds、上場投資信託)やインデックス等のパッシブ運用へのシフトが起こっています。

 今後、技術革新が行われると、個別の機能がどんどんばらけていきます。そのとき果たして、その残りで今の巨大な金融機関が生き残れるのかどうか。このことが、おそらく試されているのだろうと思います...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。